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「俺は…っ。今日の織戸がタイプド真ん中の姿していて、きっと俺の理想から抜け出してきたんだ、ってくらい完璧な外見で。でも、目の前で彼女が何をしていても、俺の頭はずっとあなたと会う時間を考えていて…。自分でも驚いた。学生時代の理想の容姿なんか意識しなくなるくらい、あなたに惚れ込んでいたんだ。アンタは…っ!!」
年上の男に覆いかぶさり、落合は悲痛な叫びをあげる。
「アンタが罪を背負っているなら、俺だって変わらない。先に手ェ出したのは俺なんです。罪が重いのは俺の方に決まっている。消えない罪です。あなたの心に、俺が、誰にも消せない傷をつけたんだ。だから…。」
啜り泣くように、落合は年上の男の胸に頭を垂れる。
「俺が罪を認めたら、罪人同士ですよね??…だったら、アンタは俺と同じ、狢になってもらえますか??同じ穴の狢になって、一緒にいてもらえますか??」
上体を起こした落合は出張先の本屋で買った、あの動物の諺を思い出していた。
『同じ穴の狢』…似たもの同士のことをいう。主に悪事を働く者を示す。
「他人にひた隠しにする穴を…罪を拠り所にしてでも、俺はアンタと一緒にいたい。傷の舐め合いだとか、理由なんか後付けでいい…っ。」
二人しか知らない罪の味を、寄り添い分けあって、細々と過ごせたのなら自分は幸福だ。
「物がいらないのなら、俺がありったけの思いを伝えます。どんなに惨めな結末になったって、知るもんか。どこのどいつかに笑い者になったって、いい。なりふりかまっていられませんよ。…アンタの傍にいられるなら、俺は何だってしてやるさ…っ!!」
気づけば、落合は泣いていた。我妻の頬で、年下の男の涙が数滴、弾ける。
「…落合。」
我妻の繊細な指先が、年下の男の片頬にかかる。我妻は、不器用に微笑んだ。
「俺は、お前と心中したいわけじゃないんだよ。お先真っ暗な闇に身投げする趣味はない。」
なら、と落合は腹の底から声を張り上げる。
「…俺と一緒に、陽のあたる明るいとこを向いて生きましょうよ…っ!!」
落合がボロボロと涙を流す。眉をこれでもかと寄せて痛みを我慢するような顔を浮かべる我妻は、年下の男を泣き止ませようと何度も何度も彼の頬を撫でる。
「うん、うん…。そうだな。…いいよ。お前が選ぶ道なら、俺は何だって応援するから。」
「先輩…。我妻先輩…っ!!」
落合は年上の男の脇を両腕で掬い上げて立たせると、正面から思いっきり抱きしめる。
「先輩…。俺は、あなたが好きです…っ!!好きなんです…っ!!」
「うん。…知っている。わかっているよ、落合。」
小さい駄々っ子を元気にするように、我妻は繰り返し横から回した手で年下の男の広い背中を摩る。
「大好きです…っ。離れたくない…っ。好き、どうしようもなく、すきなんです…っ!!」
落合は、格好悪いと手の甲で乱雑に目元を拭うのに、涙は後から後から湧いてきて、落ち着く兆し一つ見せない。
「ありがとう、落合。…こんな俺を好きだって、選んでくれて。壊れ物みたいに、大ッ切にしてくれた。」
我妻の目尻にも、小さな涙の粒が浮かんでいた。
「二人なら、きっと悪かないさ。」
午後の浴室には、落合がシャワーを使った後の水がタイルのあちこちに広がって照明が反射して光っている。薄らと広がった小さな水溜りに映るのは、図体ばかり大きくなった男が二人。
「…狢の恋も、きっと悪かない。」
我妻がひっそりと告げる。落合が急いで同調するように短い頷きを繰り返す。
雨上がりの昼下がり。どちらともなく惹かれあい、二人は…初めての口づけを知った。
〈Mの恋 END〉
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