アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
・
-
「………。」
ガヤガヤと騒々しい中、黙々と箸を進める。
特に誰とも話すことも無い為、目の前の作業に集中した。
『ねえ。』
「っ!!」
急に目の前に現れた彼の姿に思わず仰け反る。
「………。」
『初めまして…だよね?』
「…………。」
一番後ろの隅に居るのに何故わざわざ此処まで足を運ぶんだ…
思わず母上へ目線を向ける。
「っ…」
何も喋るな。そう言いたげな顔をしている。
『歳は幾つ?』
「…。」
黒緋色のような…栗色のような…不思議な髪の色をしている…
瞳は宗伝唐茶色のような色…。
弁柄色の着物がよく似合っている。
きっと栗梅色のものも似合うだろうな…
「…………。」
『なんで何も喋らないんだい?』
「…………。」
少し落ち込んでる様な…そんな姿を見て思わず声を発しようとした。
と、同時に桃華がやって来た。
[愁様!]
『わっ…桃華ちゃん……』
勢い良く抱きつく桃華を優しく抱き留める彼…
ツキン…と、胸が刺すように痛む。
「………。」
自分が女だったら出来ただろうか…
想像をしたところで吐き気を催した。
勢い良く席を立ち上がり、離れへ向かう。
周りの者は驚き、俺を目で追っていたが気にせず走る。
気持ち悪い。
そんなことを考えてしまった自分が
『ちょっ…………』
勢い良く立ち上がり、走り去って行ってしまった…
顔色が良くなかった。
こういう所が嫌いなのだろうか…思い返せばこの席で一度も彼を見たことが無かった。
[相変わらず兄様は変だし……気持ち悪い。]
『えっ………………でも彼は君の兄だろう?』
[兄様とは思いたくないのですけどね。]
なんて事を平気な顔で言っているんだ…?
彼が一言も話さないのも、離れにいるのも…おかしい。
俺は慌てて離れへ向かった。
「はぁっ……はあっ……」
扉を背に座り込む。
ズキリとその背中が痛みだす。
「うっ…………」
大丈夫だと自分に言い聞かせながらも、鏡のある部屋へ向かう。
部屋にある鏡の前までゆっくりとした歩幅で近寄る。
その間に服の紐を解き、自分の肌を外気に曝け出す。
「…………。」
そして鏡にかけていた布を取る。
後ろを向けば醜いモノが視界に入る。
短くため息を吐き、後ろを向く。
「…つ………」
片翼だけの様な形の痣が左側に広がっている。
幼い頃……いや…生まれた瞬間に疎遠にされてしまった理由を、再び視界に入れた。
案の定広がっていた…
自分が成長する度に大きくなっていくアザ…
嫌気がさす。
「………。」
背中に爪を立てる。
『藍染木蘭くん!!』
「っ!?」
後ろの襖が勢い良く開け放たれた。
驚いた顔と共に後ろの鏡ごと倒れていく木蘭君。
相当驚かせてしまったみたいだ。
『ごめんごめん…大丈夫かい?』
手を差し伸べる。
が、その手を叩かれた。
「………何、しに…いらしたんですか…」
発せられた声は弱々しかった…けれど、どこか凛としていた。
『…………。』
よく見れば彼は今上半身が露わになっている。
白く、細い……ちゃんとご飯を食べているのだろうか…そう思える程…
そして…
倒れている鏡に反射して彼の背中が見えた。
『翼……?』
「!!」
口から溢れた言葉に彼は反応し、凄い形相で僕を睨んだ。
「出てってください…」
乱雑に広がっている服を掻き集める彼の姿を、ただぼーっと見つめることしか出来ない。
「出てけ!!!!」
そこで初めて彼が発した声が耳に到達した。
『お、落ち着いて!』
グイグイと押される。
慌てて彼の細い肩を掴む。
見られた見られた見られた見られた見られた見られた見られた
「出てけって!!」
押しても押しても彼はバランスを崩すだけで、後ろには行かなかった。
胸元を叩く。
その手も容易く捕まえられる。
「…っ……」
『落ち着いて…』
「………。」
『大丈夫だから。』
心臓が脈打つ。
顔が近い…彼の息が耳にかかっている…
「……気持ち悪いでしょう。」
『…え?』
「こんな醜い痣なんて………………忘れてください。」
我に返り、彼から身を離す。
見られてしまったものは仕方がない…そう思いながら掻き集めた服を着る。
その間にも彼は俺を見つめ続けている。
「………こんなところに長居する必要はないでしょう?早くしないと、桃華が探しに来ますよ。」
言っている傍から桃華の声が聞こえ始めた。
[愁様〜!]
「ほら… 」
『あ………本当だ。耳が良いんだね、君は。』
「………。」
一向に出て行こうとしない彼。
『僕…君のこともっと知りたい。』
「………っ…」
一歩…一歩と慎重に詰め寄ってくる彼。
それに比例して下がっていく俺の身体…
『何故いつも出席していなかったのか。』
「ちょっ、と…………」
伸ばされる手。
[愁様〜?]
桃華の声がすぐそこから聞こえる…
『藍染木蘭………』
「は………ぁっ………」
首元から耳裏を撫でる彼の手…
『君はいったい……』
「……っ……」
窓から入って来た微風が、警告と共に俺の頬を撫でた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 20