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好き…
好き。
その言葉が競り上がり、喉元で留まる。
苦しい…
苦しい。
吐き出す声は嗚咽と共に消えていく。
<おいおいおい…やる気あんのかよこいつ。>
《でもまあ…っ…締りは良いんじゃね?》
「う゛……ぅ、づ………」
痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い。
<まあそうなんだけどよ………オラ、口開けろよ。>
「あ゛ぐっ……」
臭いモノが口の中に突っ込まれる。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
<早くしろよ!>
顔を殴られる。
口の中に鉄の香りが広がった。
左頬がジンジンと鈍く痛む…
恐る恐る口を動かす。
気持ち悪い…
気が付けば男二人は居なく、外はほんのりと明るさを帯びていた。
「………。」
体の節々が痛む…
口が痛い…
涙が滲む…
何て惨めなんだろう。
どうしてこんなことをさせられなければいけないんだろう。
苦しくて
痛くて
辛くて
「……っぅ……」
悲しい…
〘失礼します。〙
「……。」
〘新しいお召し物と、拭き物です。〙
「………。」
〘……ちょっと、失礼します。〙
動こうとしない俺を抱きかかえ、ぬるま湯に浸した温かい手拭いで俺の身体を拭き始める。
何もしたくない。
何も考えたくない。
〘大丈夫ですか?〙
「………。」
〘嫌なら断っても良いと言われている筈ですよ。〙
「……そんな事したら…」
〘…………。〙
そんな事をしたら、きっと母上はお怒りになるだろう…
そうしたら俺は……
そのまま俺の思考は停止した。
『やあ、相楽。』
〘愁様……?本日は食事会の日ではありませんよね?〙
『うん、違うよ。暇だったから来てみたんだ……あれ……?その湯桶、どうしたんだい?』
〘あ、いえ…〙
『誰か風邪も引いたのかい?』
気不味そうに顔を顰める相楽。
何か知られたくない事でもあるのだろうか…。
『あ、そう言えば木蓮君は居るかい?』
〘木蓮様は…今…お休みになられて、ます。〙
歯切れの悪い回答に眉を顰める。
『ふぅん……』
相楽を退けて離れの入口へ向かう。
すると、遠くから桃華ちゃんの声が聞こえてくる。
『やあ、桃華ちゃん…』
少しこの子は苦手だ…
婚約をしているだけで、まだするとは言っていない。
なのにも関わらず、彼女は俺に付き纏って来る。
君とじゃなくて、彼と仲良くなりたいのになぁ…。
[こんにちは、愁様!何故此処に?]
『ちょっと、ね……』
[まさか…………離れに御用が…?]
訝しげにそう言い放つ彼女に苛立ちを覚える。
『まあね。何か問題でもあるのかい?』
[問題…と、言うか…昨日は‘‘あの日‘‘]
〘桃華様!!〙
相楽が声を荒げた。
[………。]
少し気不味い雰囲気が流れる。
一体昨日は何があったんだろう…。
『相楽…』
〘………。〙
相楽に訴えかけるような目を向ける。
すると、小さく溜息を吐いた。
〘あまり口外はしたくないのですけれど………〙
重々しく開かれた唇から発せられたのは、聞くにも耐えない言葉だった。
どれ程の時間が経ったのだろう………
「い、ててて…………」
まだ節々が痛む。
異物感が拭えない体内の感覚……
吐き気を催し、その場で戻してしまった……。
運が悪く、その瞬間を彼に見られてしまった。
体中の血液が下がっていく気がした…
『大丈夫かい?!』
駆け付けた彼は吐瀉物には目もくれず、俺を抱きかかえた。
温かい感触が…肩を伝って全身に染み渡って行く………
先ほどまでの感覚が嘘のようだ…。
〘木蓮様!大丈夫ですか?!〙
「す、すみません…変えたばかりなのに…」
〘そんな事は良いのです……早く横になられてください……〙
相楽が心配そうに俺の顔を覗き込む。
『寝室は此処で良いのかい?』
「え…あ、はい………。」
空気の入れ替えは済ませているから…きっと大丈夫な筈だ。
バレない…筈、だ。
でも……入られたくないな…。
「あ、あの…」
『ん?』
「向かいの部屋で……良いです。」
『そうか……』
いくら何でもあんなコトをされた部屋には、彼を入れたくない。
匂い云々の話ではない。
自分の気持ちだ。
暫く時間が経って、相楽がお茶を持って戻ってきた。
相良が消えた後でも、彼は一言も発さなかった。
『今日一日何をしていたんだい?』
「え…………と……」
ドモリ始める彼……
胸の奥が締め付けられる。
僕が何か言ってもきっと彼は、どうする事は出来ないのだろう。
そう……彼、は……。
「今日は特にする事も無かったので……部屋で休んでいました。」
『そ、っか……』
「最近は急に寒くなってきたので、外にも出られませんよ。」
ふわりと微笑む彼……
初めて見る事ができたそれは、作り笑いだという事に尚更締め付けられた……。
『君は……』
ポツリと呟いた言葉は、彼の耳には届かずに部屋の空間へ溶けていった……
彼が帰った後、俺は相楽を呼びつけた。
「何故部屋に通したんですか……?」
〘引き留めはしました……ですが、嘔吐する木蓮様を前にその様な事は後回しに…〙
「…………。」
〘私も、愁様も貴方が心配だったのです。〙
強い口調で言われる。
思わず口を紡ぐ。
「良いのですか…?そんなこと言って…母上に何て言われるか…」
語尾が震える。
〘……良いのです。私は、木蓮様の使いですから。〙
「…………。」
強い眼差しを向けられ、相楽の意思が伝わってくる。
「何か…………変わりましたね。」
〘…………それに〙
急に近寄り、俺の肩を掴む。
「?!」
〘ずっっっっっと気になってたんですけど、俺なんかにも敬語使わないで下さい。〙
「えっ」
〘それに、同い年ですし。〙
「同い年?!」
驚きの余り声を荒げる。
見た目的にも到底そんな風には見えない……
明らかに俺よりも年上だと思っていた。
身長も俺なんかよりも大きいし…
〘本当、ずっと気にしてたんです。〙
「でもそんなすぐには…というかもう癖みたいなものですし…」
〘分かってますよ……無理強いはしません。〙
そう言って微笑み、俺の頭を優しく撫でる…
どう考えても同い年には見えない。
「……本当はいくつなんですか。」
〘いや、同い年だって…………三つ下げれば…〙
「…………ふはっ」
思わず吹き出す。
そんな俺に相楽は目を丸くしていた。
勿論、俺もだ。
<愁様ぁぁぁぁぁああああっ!!!!!>
帰って早々、怒号が聞こえてくる。
『た、ただいま……楓。』
<ただいまじゃありません!!!>
『ご、ごめんごめん…』
<隙あらば藍染家へ足をお運びになられて!!>
楓が詰め寄ってくる。
楓は僕の側近だ。
<聞いてるんですか!?>
『う、うん。』
<はぁ……今度お礼の品をあいつに渡さなきゃ…嗚呼、憂鬱だ……。>
急にゲンナリし始めた楓を他所に、僕は部屋に入る。
部屋に入り、短く溜息を零す。
『身を差し出す、か……』
頭の中で相楽の言葉を繰り返す。
-〘木蓮様は、月に一度…屋敷の者や客に身を差し出すのです。〙-
-〘でも最近は、そのルールを破ってしまっている方が居る様で……〙-
-〘母君様は黙認しているみたいです。〙-
そのルールを決めたのもどうやら百合さんのようだ……
何を考えているんだ。
実の息子を、娼婦のように扱って……。
拳を強く畳に打ち付ける。
『…………。』
待てよ?
身を差し出しているのなら、あの痣も…
『何なんだ…っ……』
他の者達には見せられて、僕には見せられない?
どういうことだ?
次第に彼に苛立ちが向けられる。
心を許していない。そう言われているようで…。
深く、深く落ちていく心。
零れた溜息は、熱を含み…
そして…
なぜか、怒りを含んでいた……。
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