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第一章【木霊】
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『気持ちが悪い。』
そう言い放つ彼の顔が醜く歪む。
鳥の声
風の音
木の葉の擦れ合う音
それらと共に木霊していく。
やめてくれ…
目を塞ぎ、耳を塞ぐ。
それでも尚、彼の言葉だけはいつまでも響き渡る…
「っ!!!」
目を開けるとそこは自分の部屋だった。
少しだけ暗い外を見るに、随分と早く起きてしまった様だ…
纏わり付く汗が気持ち悪い。
眉を顰めると、部屋の襖を叩かれた。
「………はい。」
〘木蘭様、お召し物をお運び致しました。〙
妙に緊張感を孕んだ声に、不快感を得る。
いつもの事なのだけれど…気に喰わない。
「ありがとう御座います……そこに置いておいてください。」
〘分かりました。〙
「今日も一日食事は入りませんので…」
〘っ…ですが、本日は雛方家の御子息様がいらっしゃいますので…〙
「いえ…私めの様なモノが出席なんて………口にする物が不味くなってしまわれる…」
〘………母君様からの命でも、ですか?〙
母上………
その言葉が身体を重くする。
「分かりました………ですが、席は御子息様から一番遠くにしてください。視界にも入らぬくらい遠くに…」
〘はい…。〙
「食事は他の人よりも少なくていいですから…」
〘分かりました…………御子息様は10時頃にお見えになる予定です。〙
それを俺に伝えてどうするつもりだ。
どうせ食事の時以外出るつもりは無いし、出させるつもりも無いだろうに…
嗚呼、不快だ…
〘いらっしゃいませ、雛方愁様。〙
『お邪魔するよ。相変わらずだね、相楽。』
毎月一度はある食事会…の様なもの。
実際は此処、藍染家の御令嬢である桃華さんとの婚約目的だ。
自分とは一回りも下の者と婚約だなんて…出来ればしたくないものだ…
けれど、藍染家も我が家門も階級が上なだけあって父、母共にイイ顔をしたいのだろう。
そう思うと、どうも上手く立ち回れない…
婚約相手くらい好きに選ばせていただきたいものだ…
溜息をこぼしながら、相楽の後を付いて行く。
ふ、と外を見ると離れの窓が開いていた。
珍しい…
いつもは固く閉ざれており、人が居る気配はするものの、誰が居るかなんて全く知らされていなかった…
『相楽…』
〘はい、何でしょうか。〙
『離れ家には…誰がいるんだい?』
〘…っ…〙
喉を詰らせる相楽。
何か怪しい…
『僕にも言えないことかい?』
〘…………本日の食事の席に御出席されますので。〙
それだけ言うと、相楽は歩を早めた。
『…………。』
そんな相楽の背から目を逸らし、離れの窓へ移す。
すると、そこに知らない青年が立っていた。
『!!』
真っ黒な整った髪…陽に当たった部分が仄かに茶色く見える…
瞳の色も黒く、くっきりとした二重瞼はアーモンドの形をしていた。
美しい…
〘愁様?〙
『あ、あぁ、ごめん…今行くよ。』
相楽に微笑みかけ、もう一度離れへ目をやる…
しかし、先程の青年はもう居なかった。
同い歳くらいだろうか…
なぜあそこに?
目が合った瞬間、青年の顔は桃色に染まっていた…
『………。』
君は誰なんだ…?
「…………。」
驚いた。
まさか目が合うとは思っていなかった…
相変わらず彼は格好が良い…
けれど彼は俺の妹の婚約者…になる予定だ…。
直接見られないから、毎度毎度この窓から見ていた。
まさか見つかるとは思っていなかった。
変な顔していなかっただろうか?
すごく顔が熱い。
胸の脈拍が五月蝿い。
「………っ………はぁ…」
吐き出した息でさえも熱い…。
いつからか…気がつけば貴方に想いを寄せていた。
男なのに…
男を好きになってしまっている。
駄目なことだと思っているのに…
今朝見たあの光景が蘇る。
解っている。
解っているんだ…
木霊する声を、そっと遮断した…。
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