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拝啓
木々の葉が舞い落ちる節となってまいりました。
離れの池に、紅葉が落ち…とても鮮やかです。
其方はどんな風景があるのでしょうか、差し支えなければ教えて頂けると幸いです。
今朝は妹が会いたがっており、家の者が宥めておりました。
勿論、御多忙と存じますが…立ち寄るだけでも大層喜ぶと思います。
離れ付近にも金木犀が咲き乱れておりますので、妹と共に香りを楽しんで頂きたいと思っております。
またお姿を拝見できる日を心よりお待ちしております。
敬具
拝啓
吹く風もさわやかな秋晴れの日が続いていますが、お変わりなくお過ごしでしょうか。
先日頂いた金木犀を部屋に飾った所、とても良い香りで仕事にも性が出ました。
ありがとうございます。
此方でも紅葉が色付いており、あまりにも綺麗なもので栞に致しました。
同封しておきますので、是非お使い下さい。
と、定型文は少し堅苦しいね。
良かったら型崩しでやり取りをして欲しいな。
桃華さんにも会いたいけれど、一番は君だ。
其方に行った際には、また会話が出来たら良いんだけれど…きっと叶わぬ願いだろうね。
僕もまた君の姿を見たい…
毎夜空を見上げる度、君を想うよ。
会いたくて苦しい。
今夜も冷えると思う、しっかり身体を温めてね。
金木犀を楽しみに、離れへお伺いさせて頂きます。
敬具
拝啓
型崩しが私には少し難しい様です。如何か御容赦下さいます様…
筆の進みを止め、同封されていた栞を見つめる。
ふわりと香るのは…彼の香りだろうか。
胸が締め付けられるとは、正にこの事なのだろう…
「……。」
場を弁えなければならない…それは分かってる。
けれど、どうしても抑えられないのは確かで…
彼の文はとても甘い。
彼の字はとても美しい。
嗚呼…胸が苦しい。
「ゲホッ、ゴホッ……ゔ、ぇ…」
口元を抑え、咳込めば…掌が濡れる感触がした。
鼻に抜ける臭いが鉄臭い…
恐る恐る口元から手を離し、視界に入れれば…案の定血が付いていた。
ここ最近…咳込めば吐血するようになってしまった気がする。
体力も日に日に衰え、床に伏してしまう事も多くなった。
そのため…文への返しも一日置きになっていたが、今回は随分と日をまたいでしまった。
気付けば金木犀は終わり、別の花々が開花しようとしている。
このままでは、筆を持つ事も出来なくなってしまうのではなかろうか…
「っ…」
嫌な思考によって、身体がブルリと震える。
そんなのは嫌だ…
唯一の彼との繋がりを、己の自己管理の無さで途切れさせたくは無い。
血に濡れた掌を強く握り締め…改めて筆を執る。
冒頭のみを綴った紙を破り捨て、何となく背を正した。
拝啓
お言葉に甘えて型崩しにて綴らせて頂きます。
最近読み進めている書物がとても面白く、ついつい読み耽ってしまうのですが…頂いた栞を挟む事でいい歯止めになっております。
私も妹の為にも交流をしたいのですが…ここ最近は寒さに負けて床から出られず、何度か相楽に叱られております。
一度外にででしまえば楽なのですが、そこに行き着く迄が長く…冬は好きなのですが、やはり寒さには勝てないものです。
今朝も怒られてしまったばかりで…
そういえば素心蝋梅も蕾が着き始めました、もう少しで花が開くと思います…是非楽しんで頂けますよう手入れに丹精を込めます。
その時は、しっかりと床から身を出しておきます。
敬具
彼からの文が届いた。
いつぶりだろう…余り永くは無かったと思うが、文にも綴られている通り金木犀の時期は終わりを告げている。
一日置きだったり、三日置きだったりと…その時々によって変わっていた為、今回もその程度だと思っていたが…
思えば今回は永かった気もしてきた。
けれど、こうして文が届いたのだから気にすることも無い。
『ふふ、可愛らしい…』
どうやら彼は、寒い季節の朝は弱いらしい。
思わぬ情報につい笑みが溢れる。
相楽に叱られる彼を想像しては、その愛らしさにまた笑う。
〈愁様…先程から何を笑われていらっしゃるので?〉
『ん?あぁ…これだよ、これ。』
〈あぁ、やっと届いたのですねぇ。今回は随分と間隔が空きましたが…大丈夫なのですか?〉
『……どう、だろうね。彼はあまりそういった事は言わないから…今度相楽にでも聞いておいてくれよ。』
〈うげっ……ご自身でお聞きになって下さいよ、俺はアイツと話したくないんです。〉
なんでまた…と言いかけ、止まる。
そうか、これを口実に足を運ぶのも悪くない。
ここ最近向こうに行っていないし、隙を見て離れにも行ってみようか…
次の会が何時開かれるのかも序に伺っておけば、それなりに誤魔化せるだろう。
『ふむ、それもそうだな。明日伺うとしよう…勿論、楓も付き添ってくれよ?』
〈え゛っ……いや、俺は…〉
『俺は?』
〈……付き添いますよ……〉
『うん、宜しい。』
にこりと微笑み、明日の起床時間とその他の予定を詰めていく。
何を着ていこう…
少し趣向を変えて洋服でも着ていこうか。
きっと彼は驚くだろうな…どんな色が好みだろう。
嗚呼、彼の事を考えるのはやはり心が踊るな…
文を持ち上げ、綴られた彼の文字を撫でる。
明日…君に会いに行くよ。
凍った水面に反射した朝日が眩しく、身を突き刺す様な冷気が痛い。
そ、と息を吐けば仄かに白み…
すっかり朝と夕の寒さが本格的になっているな…と思う。
「おぉ…」
近くの低木を見やれば、ほんの小さな蕾が僅かに開いている。
着実なる開花の兆しを目の当たりにし、ついつい頬が緩んだ。
〘随分とお早い起床ですね…〙
「最近怠けてましたから。」
〘ふふ、自覚があって何よりです。〙
ほぼ毎朝叱られているのもあって、つい嫌味らしく溢れた言葉だったが…相楽さんは気にする事なく笑った。
〘さ、余り外に出ているのもお身体に触ります…中へ入って今日分のお薬を飲みましょう。〙
「……はい。」
今日分の薬…
吐血をし始めた頃、念の為と相楽さんの知り合いである医師に処方された。
改善されている様な気はしないけれど、少しでも良くなるように動いてくれている気遣いを無下には出来ない。
大人しく相楽さんの後に続いて離れの中へ戻り、暖炉のある間へと向かった。
〘引き込もるのもお身体の事を考えて悪いから、少しだけでも外気に触れるのもいい薬だと、医師から頼まれているのですよ。〙
「ぅ……分かってます…」
先程の嫌味について、痛い所を突かれた。
叱られている…と言っても、相楽は無理強いをしてはいない。
本当に出られない時は、身の回りの世話をした後に静かにここを去ってくれていた。
叱る時は、単純に床から出たくない時に態とらしく言ってしまった時のみ…
完全に己の甘さのみ叱られている。
〘どうぞ、こちらを。〙
差し出された薬を受け取り、口の中へと流し込む。
いつ飲んでも苦い…
次いで出される水で流し込んだが、咥内に残った苦味は消えない。
良薬は口に苦しとも言うが…流石に苦過ぎではなかろうか。
〘そんな幼子の様な反応されても駄目ですよ。〙
「苦い…」
〘効き目は良いんですから…それとも、木蘭様は幼子の様な甘〜い薬が良いのですか?〙
「そ、んな事は…」
〘ふふ、冗談ですよ。〙
「………。」
そこまで甘くは無くて良いけれど、この苦さがどうにかなるのであれば其方をお願いしたい。
まぁ、こうして馬鹿にするくらいだ…言ったら更に馬鹿にされるだろう。
残った水を飲み干し、相楽に手渡す。
薬を飲んでいた間に暖炉へ火をくべていたのか、気が付けば部屋は暖かくなっていた。
〘そういえば…〙
「?」
〘本日、愁様がお見えになるそうですよ。〙
「えっ!」
〘ふふふ…〙
「ど、どうしよう!卸した服ってどこに仕舞いましたっけ?!」
〘後で持ってきましょうね。〙
嗚呼…彼が来る。
胸が高鳴り、頬が熱くなっていく…
会える会えないは如何でも良くて、ただひと目でも元気なお姿をこの目に焼き付けたい。
何時頃お見えになるのだろう…
今日はどんな格好をして来るのだろう…
嗚呼…いつ振りに見やる貴方は、どんなに素敵なのでしょう…
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