アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
・
-
懐かしい光景…そう言われて、今の自分の格好を思い出した。
慌てて服を抱き寄せ、つい身を隠す。
『ふふ、それも懐かしいね…』
「な、何故此処に?!」
『ん…いや、少し外の空気を吸おうと思って、ね。』
「室内ですが!?」
『ははは…そう怒らないでくれよ、切ないじゃないか。』
倒れた俺の腕を引き、笑いながら立ち上がらせてくれた。
大人しく引かれるがままに、彼の胸へと身を寄せれば…優しく抱擁をされる。
彼の体温を直接自分の肌で感じ、何だか擽ったい。
『はぁ……無事で何よりだよ。』
「え…?」
『外に…あまり良くない輩が居てね、つい…』
「………。」
深くは言わないけれど…きっとそうだろう。
俺を使おうと目論んでいた人間が、外に居たんだ。
やはり、何も無い事など…
「で、では…見られた、のですか?」
『それは心配無いよ、楓と相楽が何とかしてくれてるさ。』
「な…何とかっ、て…」
『……彼等はとても優秀だからね、大丈夫。』
「………。」
それ以上は聞けない。
俺と違って、あの二人の事をきっと彼は知っているのだろう。
そろそろ身を離そうと胸板を押したが、彼は離そうとしない。
「あ、の…?」
『……君の背中…』
「!!」
『あぁ…隠さないで…』
「でもっ…」
『醜くなんかないさ…美しいよ。』
つ…と指先で背を撫でられる感覚がして、固まる。
肩甲骨辺りから、尾てい骨迄をゆっくりと下がり…再び戻って行く。
「ぅ、ん…っふ……」
『…翼の様だ…君は天使なのかもね。』
「…ぁっ…」
離れようにも甘さを孕んだ刺激によって、より一層彼の胸板へと潜り込んでしまう。
掻き抱いた衣服を離し、堪らず彼の服へしがみついた。
声を抑えようと彼の肩口へと押し込むが、その指先は止まらない。
吸い込んだ空気から、ほんの少しだけ酒の匂いが混じっているのに気付いた。
どうやら彼は酔っているらしい…
「あ、のっ…ん…ふ、ぅ…っ…」
『ん?』
「酔って…ぅあっ…」
『いや、酔ってなんか居ないさ。』
気が付けば指先から、掌全体で撫で付けていることに気付き…
余計に顔が熱くなった。
絶対に酔っている…でなければ、こんな事…っ…
止めようにも、口から出るのは上擦った声ばかり。
如何仕様も無い熱の行き場に困り、生理的な涙が滲み出した頃…そっと顎先を掬われた。
見上げたればそこには彼の瞳があって…その奥に色欲の炎が見えた気がした。
「ぁ…」
『随分と、可愛らしい顔をするんだね…』
「…ぅ…」
いつしか鳴り響いた警告の音…
少しづつ近付いて来る彼の顔…
自分の吐く息が熱い…
触れられた背が熱い…
『嫌なら、拒んで…』
「…っ…」
甘く響く声と共に、力強く後頭部に手が添えられた。
拒む…?
如何して。
俺にはもう、貴方を拒む理由など…
「一つも無い……」
『…!』
「…ん…っ…」
俺は今、夢を見ているのでしょうか。
揺れる視界の中、何度目を開いても…彼が見える。
「…っ、あっ…んんっ…う、あ…」
『木蘭……』
「あぁっ!!だ、め…っ…ゔあ…っ!」
愛しい愛しい…彼が。
『如何してそんなに泣くんだ…?』
「貴方が…っぁ…居る、から…っ…」
『………あぁ、此処に居るよ…』
優しく頬を撫で、優しく触れてくれる。
手を絡ませ…微笑んでくれる。
何て幸せな夢なのだろう…
恋焦がれていたあの人に抱かれる夢は、こんなにも嬉しいものなのですね。
嬉しい…
嬉しい…
そっと手を伸ばし、彼の頬に触れれば暖かい。
途端にまた涙が溢れ出る。
愛おしい者を見るように微笑んだ彼は、そっと拭って瞼へと口付けを落とした。
如何か…
如何かこれが夢であるのならば…
伝える事はしません。
だからずっとこのまま……
如何か…
如何か…
嗚呼…お慕いしております、ずっと…ずっと。
『ん………』
目を開ければ、朝日が登り始めていた。
見慣れない天井…右腕から微かに感じる謎の重み。
昨夜は慣れない酒を与えられて…それから……
だめだ、思い出せない。
冷水を浴びせられたかの様な衝撃と、先程から感じる右腕の重みに焦る。
俺は…何を……もしかして、彼女と…?
恐る恐る右下へ視線をやれば、柔らかそうな黒髪が見えた。
「ん、ぅ………」
彼…だ。
コロリと寝返りを打ち、俺の胸へと擦り寄る。
見えた顔は紛うこと無き彼。
安堵するべきでは無いと思うが、相手が彼女ではない事が分かって溜息を吐いた。
『………。』
いや、待て。
この状況は可笑しい。
俺も彼も、衣服を着ていない。
申し訳程度の衣だけが掛かっている…これでは風邪を引いてしまう、などと巫山戯た事を考えてる暇はない。
彼女だろうが無かろうが、この状況は如何考えても危険だ。
寧ろまだ彼女の方がマシだったかもしれない…!
慌てながらも、彼が起きないようにそっと腕を引き抜き…身を離す。
体温が無くなり寒くなったのか、分かりやすく眉を顰めた。
「んん゛………」
『……ふふっ。』
それがまた愛らしくて、ついつい笑っていたが…流石に起きてしまったら取り返しが付かなくなる。
出来れば余韻を味わいたい所だ…
しかし彼の事も考えつつ、後ろ髪を引かれる思いで身支度を素早く済ませた。
寝室らしい所を見つけ勝手で申し訳無いが布団を敷き、彼を運んだ。
『………。』
名残惜しい…
そっと彼の頬に口吸いを、と身を屈めたところで…
〘駄目ですよー。〙
『………相楽。』
邪魔が入ってしまった。
両手を上げ首を横に振り、彼から距離を取れば…相良は満足そうに微笑んだ。
〘昨夜の事は?〙
『…多少。』
〘………。〙
身支度をしてる最中、ほんのりと思い出した。
完全に酔っていたとはいえ、彼の居る離れへと向かった矢先…
良くない輩達が先に居た。
下品な言葉を話しながら戸を開けようとした辺りで、つい締め上げてしまったのだった。
その場には三人…
一人沈めた後に、声を荒げようとした者に手を伸ばした辺りで…偶々近くを通った相楽と楓によって結局全員伸してしまった。
その後の事を二人に丸投げして…俺は彼に会いに向かった。
と言う訳だ…
深く語らずとも、彼の今の状況を見れば相楽には何となくバレているのだろう。
『すまない…』
〘………はぁ、あまり長居は良くありません。ここへ来る前に楓を叩き起してありますので、彼と共に静かにお戻り下さい。〙
『ああ。』
〘………。〙
『?』
思いの外お叱りが無く、少し拍子抜けだ。
相楽を見やれば、何やら眉間にシワを寄せていた。
〘会食後は…その…〙
『………。』
〘人も多いでしょう?ですから……えっ、と…〙
何を言おうとしているのか、何となく察してしまう。
胸糞が悪いけれど…つまりそのままの意味だ。
昨夜見た三人。
いや、それ以上。
俺が来なければ、彼は相手をする手筈になっていた。
『……そうだな。』
〘………ありがとう御座います。〙
『ん?!』
〘あ、決して今回の事を許す訳では無いですが…〙
『ああ…』
〘けれど、木蘭様がこうして幸せそうな顔をなさっているのであれば…私は何も言う事などありません。〙
『…………。』
幸せそう…か。
普段がどんな顔をして寝ているのか分からないが、相楽が言うくらいだ…きっと余程の事なのだろう。
心地良さそうに眠る彼は、何時になく幼く見える。
〘ですが、楓からはキツく言われるでしょうね。〙
『ははは…』
〘愁様。〙
『………。』
〘昨夜の事、目が冷めた輩から百合様のお耳に入る事でしょう…〙
『そう、だね…』
〘私も最低限の事は致しますが…どうか、お許し下さい。〙
『相楽が謝って如何する…今回、否があるのは俺の方だろう?』
〘………。〙
哀しそうに眉を顰めた相楽は、そっと彼の頬に掛かる髪を一房除けた。
母親…いや、兄の様な気遣いからして…相楽にとって彼は、大切な人なのであろう。
『どんな罰でも受けるさ…俺達にはそれしかないのだから。』
〘…っ、申し訳ありません…〙
『俺の方こそ、苦労を掛けて申し訳ない。』
〘………。〙
『けれど、俺は彼を愛している…言葉では足りないくらいに、もう暫く共に苦しんでくれるか?』
〘えぇ……えぇ、喜んで…〙
涙を流す彼を背に、迎えに来た楓と共に離れを出た。
幸せそうだったあの表情が、脳裏に浮かんで離れない。
彼はあの夜、言ったのだ…
-「如何か…今夜限りでも構いません、傍に居てください…」-
-「愛して頂けなくとも…俺は…っ、…」-
-「貴方を見ているだけでも…幸せ、なのです…」-
涙を流し、そう囈言の様に何度も何度も言った。
俺の頬へ躊躇いがちに手を伸ばし、縋る様な瞳を向けて…
-「如何か………如何か…ずっと………」-
何度も…何度も。
願う様に…
〈愁様…?!〉
『…っ、ぅ…っ…』
〈………。〉
慎重にならなくてはならなかった。
それを侵したのは、紛れも無く己自身だ。
重く受け止めなければならない…
浮かれていたのだ…
俺を拒まない彼に。
受け入れてくれた彼に。
涙を流し、嬉しそうな表情を浮かべた彼に。
たった一夜の甘美な時は、今後一切味わえ無い事だろう…
百合さんの口から、今後一切の接触を禁じられてしまった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 20