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揺れる視界…
胎内で蠢くモノ。
吐き出される汚物。
今日はこれで何人目だったろうか…
七人目…?
嗚呼…もう、分からないや。
「………。」
呆けて何時間が経っただろう…
そろそろ洗わないと、シミになってしまう。
軋む身体に鞭を打って起き上がり、取り敢えず身に纏う。
据えた臭いと、吐き出されたモノの独特な臭い。
二つが混じり合い…更に異臭を放っている…
嘔吐きを堪えながら窓を開け、空気を入れ替えた。
「………つっ…」
最後の人達、乱暴だったな…
締りが悪いからと言って、煙草の火を落とされた。
嗚呼…伸びた毛先も切られたっけ…
次いでだから後で適当に揃えよう。
万が一彼に見られた時、不揃いだったら恥ずかしい…
「ぁ………」
嗚呼、またやってしまった。
会う事など無いのに…
「は、はは……」
乾き掠れた笑い声が零れた…
そう、もう会う事は無いんだ。
俺のせいで…
いや違う、元の関係に戻っただけだ。
妹の婚約はどうやら進んでいるらしい…俺の事もあって破棄になると思ったけれど、どうやら大丈夫だったみたいだ。
それだけが唯一の救い…
彼の身に何かあったら、それこそ俺は生きられない。
俺の事は如何でも良いんだ。
彼だけは…いつまでも幸せになって欲しい。
「………。」
でも、少しだけ我侭を言うのであれば…
ひと目でも彼を見たい。
この我侭は、通らないのだけれど…
「ん、そうだ…」
重い身体を引き摺り、文を取り出す。
文面や定型など如何でも良い…今から綴るのは手記のようなもの、日記のような物…
届く事のない、宛のない文になるのだから。
「…ふふふ、何書こうかなぁ…」
そうだ、何となく今迄の事を思い出しながら綴ろう。
彼から貰った栞の事も綴ろう。
少しづつ思い出して、これに書き留めよう。
思い出を…失くさない為に。
「…ゲホッ、ゴホッ……」
拝啓…
寝る前に少しだけ風に当たろうと、外に出る。
勿論、従者付きではあるけれど…
楓にそれとなく目配せをし、従者との間に立つ様に仕向け…ぼんやりと夜空を見上げた。
『………。』
遠くで下品な会話が聞こえても、今の俺には何も出来やしない。
離れの方へ消えていくのを…黙って感じるだけ。
不甲斐ない…
〘…交代します。〙
『………。』
従者の交代で、相楽が来たのか…
俺との接触は禁じられていないのか、傍また相楽には相楽なりに罰があるのか…
深くは聞こうとは思わない。
あの日から何となく、俺達の間には距離ができてしまった。
〘………。〙
『……最近、火事が多いね。』
〘えぇ、この時期は乾燥してますから。〙
『………。』
火事の知らせが遠くで聞こえ、つい相楽に話し掛けてしまったが…何とも普通に返された。
思わず驚く俺に、不思議そうな顔を向けてくる…
〘…何か?〙
『ふはっ、いや…何でもないよ。』
〘………。〙
『…息抜きは出来ているかい?』
〘え……まぁ、それなりに…〙
『出来てなさそうだね…楓を貸そうか。』
〈え゛っ…〉
その言葉を聞き、相良は目を輝かせて楓を見やる。
差し出された楓は心底怪訝そうに顔を顰めたが、諦めに近い溜息を吐くだけだった。
『朝には返してくれよ?』
〘ありがとう御座います!!〙
『はっはっはっは…楓、俺はもう寝るから…行っておいで。』
〈………分かりましたよ……おい、お前のためじゃねぇからな!愁様のお気遣いに感謝しろよ…って引っ張んな!!〉
仲睦まじく消えて行った二人を見届け、俺は用意された間へと戻った。
床に入り、目を瞑る。
今頃彼は…卑しい人間に弄ばれているのだろう。
そう考えては打ち消し、また繰り返す…
どれ位同じ事を考え続けただろう。
次第に寝付けず…寧ろ腸が煮えくり返り、勢い良く起き上がった。
行っても…良いだろうか…
今はもう誰も居ないだろうか…
いや駄目だ、繰り返してはいけない。
見つかったらそれこそお終いだ。
でも今頃彼が泣いてると思うと…
『……ックソ…』
床から飛び出す勢いで立ち上がり、静かに襖を開ける。
辺りを見渡し、人の気配が無いことをしっかり確認し…
雪が積もった庭へと、裸足のまま歩いた。
微かに音を感じれば木陰に隠れ、慎重に慎重に離れへと距離を詰める。
後少しであの円窓に届く…
足の感覚は既に無いけれど、彼に会えると思えば寧ろ全身が熱くなってきた。
『………っ!』
カタリと奥の方から音が聞こえた。
慌てて低木を影にし、息を潜める…
そっ…と顔を覗かせて居れば、現れたのは相楽と楓だった。
〈ちょ、何っでここに来るんだよ…!お前禁じられんじゃねぇの…?!〉
〘声が大きい…!!〙
〈ご、ごめん……〉
〘…今は誰も世話をしてないんだ、俺がやらなきゃ本当…飢え死には愚か凍え死んでしまうだろ…。〙
〈………。〉
〘な、なんだよ…〙
〈お前、いっつもやってんの?〉
〘当たり前だろ…!〙
〈ふぅーん……相当気にしてんのな。〉
〘そりゃ…っ……俺が使えてた人、だし…〙
〈…だし?〉
〘っ……弟、みたいだった…んだよ……ほんと…〙
〈………なる程な。〉
相楽はコソコソと背負っていた籠から、一束の薪ともはや隠す気など無い程の食材を置いている。
そして何か紙に認めると、それもまた隠すように薪の束に押しやった。
一通りの工程を終えた後…二人は彼の顔を見る事無く去って行った。
嗚呼…良かった、相楽がそれなりに根回しをしているのなら安心だ。
そう思い、来た道を引き返そうと立ち上がり掛け…止まる。
「ゲホッ…ゲホッ、ゴホッ…」
『…っ…』
咳をしながら、彼が出て来てしまった。
完全に帰る時を失ってしまい、より一層深くは低木に身を寄せた。
嗚呼…やはり身体が細くなってしまったようだ。
咳もしている、体調が優れないのか…
それでも行為はされるのであろう、縒れた衣服から覗く肌には痛々しい傷が見える。
良く見たら…髪も不揃いになっている。
脅された時に切られたのだろうか…
「あれ……」
先程相楽が置いていった物が目に入ったのか、彼は驚きながら草鞋を履き近付く。
すっかり外に見えているじゃが芋を一つ手に取り上げ、困った様に笑った。
「相楽さん…」
いそいそとそれ等を丁寧に拾い上げ、中へと運んだ彼は…書き置かれた髪を手に取ると、嬉しそうに胸へ抱きとめる。
次第に何かを耐えるような顔付きをし始め、苦しそうに眉が寄せられた。
また…咳が…?
そう思ったが、目元が酷く赤らみ震えているのが分かった。
泣くのを……堪えているのだ。
『…………っ…』
それを見てしまった以上耐えられず、俺は彼を抱き締めた。
驚く彼を他所に、ただ浸すら強く…強く抱擁する。
「な、んで……」
『すまない…っ…』
「なん、で…ぇ……っ…」
肩口が温い…
耳に伝わる声が震えている。
『ずっと……ずっと、辛い思いをさせてしまって…』
「…ぅ、あぁ…っ…」
『すまない…っ!』
強く背の服が握られる。
あの日から随分と小さくなった…
今にも消えてしまいそうなのが恐ろしく、強く強く抱き留める。
泣くのを耐えていた君を見るのは辛い…
強くなろうと努力する君を見るのは辛い…
人の温もりを知り、優しさを知った君には酷い仕打ちだったろう。
心からの謝罪を何度も何度も述べる…
その度に、首を横に振ってくれ恐る恐る俺の頭を撫で付ける。
こんなにも優しい君が…
こんなにも暖かい君が…
苦しむ必要など無かったのに…
全ては俺のせいだ。
それでも…
今この一瞬を幸せだと思う俺を、如何か許して欲しい。
彼が俺を抱き締めてくれている。
変わらぬ彼の香り…体温、声…
全てが暖かくて…
耐えていた全てが一気に溢れ、涙として零れ落ちていく。
「うぅ…あぁっ……」
『……っ…』
如何して此処に?
如何して会いに?
お身体は平気ですか?
何も変わりなく過ごしてますか?
問いたい事が多いのに、口から出るのは嗚咽のみで…
彼が裸足だというのにも気付いているのに…
それでも何も言えず、ただただ強く抱き締め返した。
何度も何度も謝罪を述べるのに対し、決して貴方のせいでは無いと首を横に振るのが精一杯。
何方ともなく何度も口付けをし、首筋に擦り寄った。
嗚呼…やはり貴方は暖かい…
今なら死んでも構わない程…幸せです…
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