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ロミオとジュリエット 3
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結(ゆう)と私は、まだ体の関係はない。
この先、そう言う関係になって良いのかどうかまだ迷いがある。
いくらなんでも、この恋は社会的反響を考えたら危険すぎる。
だいたい、あの芸術品のような体で”男”を受け入れられるのか。
彼と会ってから、彼の演目のブルーレイを購入してドイツの自宅で見た。
結の見た目そのままの王子的な役割の白鳥の湖と、クラッシックバレエの常識を覆した原始的なエネルギーを表した火の鳥。
火の鳥は、刺激的なリズムが炸裂し野蛮なバレエとまで言われたが、パリの観客には大盛況だったと解説文にある。
彼は、王子の役も野蛮な役も彼らしく美しく官能的に演技していた。
彼の演技は、夢としか思えないような驚きの瞬間の連続だった。
観客は彼のドラマティックな演技に席巻され、あくなき感動を求めて彼の演目を見るのだろう。
私はバレエには全く不案内だが、道ノ瀬結(みちのせ ゆう)の技術と芸術性の高さは分かる。
例え、違う分野でも、”おのれの道を究めた者なら解る”。そう言うものだ。
解説文は続く。
昔は、白鳥の湖のような女性ダンサーが主役の演目が多く、男性ダンサーは添え物でしかなかったとのこと。
それが、ロシアバレエ団のディアギレフやニジンスキーと言うスターが変えた。>
ここら辺は、何とか聞いたことのある名前だ。
『大きな跳躍力や圧倒的な力強さの男性有名ダンサーが誕生した。』
そして、今、結のような中性的なダンサーが世界の頂点に立っている。
抱きしめた時のしなやかな体つき、驚異的に柔らかい体はやはりバレエで鍛えた以外何物でもないだろう。
演技の時の大胆さと官能性に比べ、プライベート時の結は別人のようだ。
彼は23歳だが、普段はもっと幼い雰囲気すらある。
けっして、汚してはいけないような清純なオーラを持っているのだ。
もう時間だ。
他の事にかまけている時ではない。
私は、結を私の大事なものをしまっておく記憶の引き出しにしまい、試合に出向くことにした。
ドイツのブンデスリーガが開幕される。
ブンデスリーガとは、ドイツのプロサッカーリーグで、世界第一の観客動員数を誇り、全世界的にサッカーファンを熱狂させている。
そこが、私の生きる場所であり、主戦場だ。
ブラオミュンヘンは、5日、ブンデスリーガでカル―エと対戦。
試合は、ブラオミュンヘンアベルが激しいプレッシャーをかけ、カルーエがカウンターをねらう展開となった。
ブラオミュンヘンがシュートをセーブし、且つカルーエもゴールさせない展開で、両チームともにゲームを引き締めた。
前半は双方無得点のまま折り返す。
後半6分、ブラオミュンヘンのアベルが、先制点となる1点目をゴールに叩き込んだ。
結局試合終了までに2点加点、3-0でブラオミュンヘンが開幕戦勝利を収めた。
その夜、私は、ゲーム後の勝利インタビューでスポーツ記者たちに大勢囲まれていた。
「Togo(東郷)監督、試合直後、今のご感想をお願いいたします!」
「開幕戦を勝利で飾ることが出来てとても嬉しい。アベルを当チームに迎えられて良かった。」
「監督、勝利の決め手は何だったとお考えですか?」
「アベルを始め選手たちのスペースを作る能力、積極性やスピードが功を奏したと思う。
良いスタートを切ることが出来たことに感謝する。先制点は仲間のアシストによる価値ある1点だった。彼のゴールが試合を楽にしたね。初戦アウェイでの勝利に私も満足している。」
「東郷さん、試合見ていました!おめでとうございます。」
「結(ゆう)?」
結からのLineが、インタビューを終え、サッカースタジアムの控室に戻った夜10時頃入って来た。
「今パリにいます。」
選手たちはシャワーを浴び帰るが、私は早々と自分の車に乗り込んだ。
「近々、お会い出来ますか?僕はだいたい、金土日に公演があります。」結のLineは続く。
私は土曜と水曜に試合がある。
しかし、互いに何とか忙しい予定を照らし合わせる。
しばらくして、結が言った。
「9月2週目は、僕ちょっと空きます。2週目の月曜日どうですか。」
「そうしよう。」
結の住まいはパリだ。公演もパリで行われている。
私のいるドイツ・フライブルグからは、鉄道なら4時間で行ける。
しかし、パリは人が多い。日本人もたくさんいる。
SNSが席巻する時分、写真でも撮られればあっという間に拡散する。
「結、こちらに来れるかい?」
「はい。行きます!」結は即答した。
若いからと言えばそれまでだが、その行動力があって今までデートすらしたことがないと言うのだから、バレエに賭ける情熱は凄まじい。
しかし、片道4時間合計8時間の移動となると、結は泊まることになる。
シングルのホテルを予約してやればいい。
私はまだ、彼と深い仲になるのはためらった。
お互い、そういう関係になった場合、やはりただでは済まされまい。
隠し通すことは不可能に近い。どこかでばれる。
現に、週刊Bezの諸橋記者のように既に勘付いている者がいる。
ばれれば、日本の週刊誌やワイドショーは蜂の巣をつついたような大騒ぎになるだろう。
下世話な記者どもが海の向こうから押し寄せて来る。
そうなった場合、仕事の支障が出るのは必然だ。
特に、結だ。
例のCMスポンサー企業から突き付けられた問題。
恋愛沙汰を起したら、ファンクラブは会員離れ、商品売り上げも半減すると言う。
結が独身、シングルであることに価値があると言うことだ。
”恋愛+相手が男の大スキャンダル”では前代未聞だろう。
結は、社会的に抹殺されるかもしれない。
東京で結を抱きしめ、キスもした。
でも、日本を発つ時、週刊Bezの記者が言った。
「王子との密会は上々でしたか?」
あの悪魔のような声が、甘い夢をすべて破壊した。
「結、月曜日にフライブルク中央駅に迎えに行く。列車到着時刻が決まったら教えてくれ。気を付けておいで。」
月曜日の午後2時過ぎ、結は定刻通りやって来た。
結の住むフランスパリと私の住むドイツフライブルグは、国際高速列車で結ばれている。
外国であっても鉄道で結ばれているので、日本で言えば他県に行くようなものだ。
ドイツ鉄道は多少遅れることもあるが、他の国に比べればはるかに日本的で時間を守る。
結の指定席のある車両が止まるあたりで私が待っていると、国際間高速列車ICEが重たい機械音と共にホームにゆっくりと滑り込んで来た。
ドアが開き、結が1番に降りて来た。
紺色のキャップを被り、学生のような大きな黒いリュックを背負って、パタパタと走り出て来た。
「ようこそ。」
フライブルクと言う街は、中心街に車や自転車が乗り入れ出来ない。
移動は徒歩か、トラム(路面電車)に乗る。
中心街を出るとすぐ、駐車場や駐輪場がたくさんある。
私は、駐車場に止めてある私の車の後部座席に、彼のリュックを入れた。
駅から車を出し、街の中に出た。
「お家は近いですか?」
「20分くらいある。」
「マンション?」
「着いたらわかるよ。よくチームの選手たちが来る。実は今も来ている。」
「そうなの?」声に少しがっかり感が混じる。
「私の家で夕食まで休んで、今夜はホテルに送るよ。」
「えっ?東郷さんの家ではないの?」
「男友達として泊まるなら歓迎するよ。でも、それ以外なら・・・」
「それ以外?」結が怪訝そうに聞く。
私は、ひと呼吸、置いた。そして言った。
「私は、遊びではSEXしないよ。」
「…遊びでなくても、僕とはしないのではありませんか?いいのです。僕は恋愛禁止ですから。今までも独りですし、これからもです。東郷さんのご迷惑になるようなことはしません。」
未経験の結に積極的にSEXの意思があるかどうか疑問だが、私から完全に拒絶されるとやはりショックなのだろう。
結から完全に笑みが消えていた。
彼を傷つけた気がして、私は後悔した。
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