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ロミオとジュリエット 4
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「ここ?」
「そうだ。」
「すごい!ここに住んでいるの?」結は心底驚いた顔をしていた。
「この家は、”ガストホフ”って皆呼んでいる。旅籠の意味だ。
150年くらい前の旅籠なんだよ。そこを買い上げて住まいにしている。」
裏の駐車場に車を入れ、三日月をあしらったアーテスティックな鉄柵の門を開けると、結を庭へ促した。
「オカエリ!」
沢山ある窓が開いて、叫んでいる若い男たちがいる。
「うちのチーム、ブラオミュンヘンの選手たちだ。」
「日本語で”オカエリ”?」
「私が教えた。」
玄関を開け、結を中に促す。
「2階がリビングとダイニングルームになっている。」
「すごく素敵だね。」結があたりを見回す。
暖炉の上に、グレーの猫が座ってこちらをチラッと見た。新参者が来たなと言わんばかりに。
「あれは、ロマーナだ。」
「ロマーナ。」
「ローマからもらって来た。」
大きなテーブルの、花瓶の陰にもいた。
「こっちはアルマーニ。ドイツ産の黒猫だ。」
「あれは、ジャポン!?」
「よくわかったね。」
「三毛猫だから。」
階上から、ドタドタ大きな足音が降りて来た。
「トオルの恋人かい?」クラブチーム選手のひとりが東郷の名前を言った。
例え、先生と生徒間柄、監督と選手の間柄でもファーストネームで呼ぶのが普通だ。
「いや友達だ。」
「始めはみんな友達って言うのだよね。」東ドイツ訛りの選手が言った。
「ユウです。初めまして。あ、アベル選手ですよね!先日の先制ゴールの!?」
サッカーファンの結は興奮気味に言った。
「君も、ネットニュースで見たことがあるぞ。ええと、誰だっけ…。」
「パリでバレエダンサーしています。」
「ああ、そうだ!」
アベルがバレエの真似事してくるりと踊ってみせた。
「ごついアベルがやると、違うものに見える。」東郷が言うと皆どっと笑った。
選手たちが、前庭にでサッカーを興じ始めた。
休み中もサッカーに興じるほどサッカーが好きなのだ。
2階の窓から結と私はそれを見ていた。
「結、ここではプライベートは守られている。週刊誌もこの町へ入れない。」
「本当に?」
「元旅籠なので、部屋だけはたくさんある。時々選手たちの休養場所に提供しているんだよ。
結、君も好きに使っていい。」
「男友達として?」結がムッとして言った。
私は、窓枠に両手を付き、結を腕の中に納める形になった。
「そんな気ないくせに…。」結が肘でどけようとする。
私は彼の耳元で言った。
「結、日本を離陸する直前、成田空港の搭乗ゲートで、週刊Bezの記者に出くわした。」
「え?」
「あの男は勘付いている。
近いうちに私たちは、大変なことになるかもしれない。
ここに来てくれるのは嬉しい。
しかし、一線を越えてしまったら、連中は特異の嗅覚で必ず気付く。
結と私を潰しに来る。私は日本チームの監督ではないし、ここにいる限りプライベートは守られる。
結はバレエに命を賭けているだろう。
君ほどの才能がスキャンダルで潰されるのを見たくない。君のご家族、ファンに申し訳ない。」
「東郷さん、だから僕を避けたの?」
「そうだ。」
「なら、僕は今夜ホテルに独りで行きたくない。」
「結…。」
「”ここ”に、いたい。」
私は、結を後ろから抱きしめた。
庭先でサッカーに興じているアベルたちが、こちらに親指を立てGood!と言っている。
私は、ようやく腹を決めた。
「今夜、君を抱く。いいね。」
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