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ロミオとジュリエット 7★
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私には、サッカークラブがつけてくれた日本人秘書がいる。
小崎真(おざきまこと)35歳だ。
今夏、初めて私の元にやって来た。
ドイツで監督業だけしている時は、秘書などいらないが、私はその他の仕事が結構ある。
ドイツでCMに3本出演していたが、日本企業からも新たな打診が来た。
ファッション誌など、サッカー以外の取材も増えた。
私はあまり日本企業の広告には出たくないと考えている。
日本企業は何かと制約が多く、行動を狭められる。
”契約期間中恋愛禁止”の結がまさにそうだ。
まさか、42歳の私にその要求はして来ないだろうが。
勝手に結婚するな、くらいのことは言ってくるかもしれない。
GDPのを6割一般消費が占める日本では、とにかく日本人の”欲”を刺激するCMが多い。
消費者をこれでもかこれでもかと刺激して、商品を買わせるシステムだ。
メディアに露出が増えれば、サッカー以外の取材も格段に増える。
勝つことが大命題の私には、余計な神経を使う時間も労力も増えるのだ。
しかし、所属するサッカークラブでは、良い宣伝になるのでメディア、広告媒体にはなるべく出て欲しいとのことである。
その交渉をこなしてもらうための秘書が必要なのだ。
その日、日本のスポンサー企業の担当者と会うため、秘書の小崎と共に出勤することになった。
スポンサーとは、ベンツの日本販売窓口になるコーゼと言う企業だ。
「おはようございます、監督。今日から、監督のお車は僕が運転しますのでよろしくお願いいたします。監督は、後部座席にどうぞ。」
「これは、私の車だが。」
サッカーの試合やトレーニングに出向く時も、当然私は今まで自分で運転して来た。
「いいから監督、僕が運転します。」
「君が運転する理由はないだろ?」
「監督、コーゼさんにばれているんですよ。」
「何がだ?」
「この夏まで、監督がスピード違反で6カ月の免停食らっていたこと。」
私は、片手で顔を覆った。その通りだ。
「車企業のCM出ているのに、免停なんてありえないですよ。それに、損害賠償請求されて当然の所、されてないでしょう?何でだと思います?」
「知らん。」
「監督がスピード違反して、週刊誌に書かれる所を、記事を金で買い取ってくれた人がいるのですよ!」
「それはまた奇特な。誰だ?」
「コーゼの社長ですよ。監督を近いうちにCMに使いたいって。今日はコーゼの担当者さんに頭下げてもらいますよ。」
「わかった、反省している。
まあ、とにかく、今日の所は私が運転するよ。小崎君は、ドイツに来て間もないし。遅刻したら困るのだろ。」
「誰が遅刻ですか。」
私はさっさと、運転席に座る。
「早く乗れ。」
私がアクセルを踏むと、まもなく時速100㎞/hと出た。
「監督、この道、速度制限100km/hですよ、また免停になったらどうするんですか!」
ドイツの高速道路アウトバーンは速度無制限だが、それは全体の50%程度で、道の混んでいる一般道は100㎞/hや120㎞/hの速度制限がある。
「免停中、電車で通う監督、って写真入りで週刊誌に載るところだったんですよ。ベンツに乗っているのに、あー恥ずかし。」
「あのね、小崎君、この国ではね、トラクターもタクシーもベンツなんだよ。日本で考えるような高級車意識はないんだ。」
「監督は、ブラオミュンヘンのダンディな広告塔です。ブランドイメージ壊さないでください。」
私の運転する車の助手席で、小崎が言う。
プライベート時は、結が座っているシートだ。
「なんだ?ダンディな広告塔って?」
「監督が着ている服、売れるんですよ。試合の直後からネットであのブランドは何だと問合せが殺到し、判明するとあっという間に完売。靴も、試合会場でお飲みなるミネラルウォーターもお好きなコーヒーも。」
「私の使命は、試合に勝つことだけだ。」
「そこが良いんですよ。ストイックに仕事に徹する男の色気を感じます。色気出してやろうと言うわざとらしさがないんですよ。スタイル抜群だから、何着てもお似合いですし。」
「現役サッカー選手のトレーニングに毎日付き合っているんだ、いやおうでも鍛えられるよ。」
「監督、日本の男性誌M誌から、表紙と巻頭ページの写真依頼が来ています。
SEXYな女性モデルと一緒だそうですよ。」
「それ、受けるのか?」私は憂鬱になった。
小崎は撮ってもらうのが自分のようにウキウキしている。
「あと監督の本を出したいと熱烈な打診がありましたよ。ブラオミュンヘンの幹部も面白い話だと乗り気でして。」
「何の本?」
「写真集です。スーツ姿と、試合風景とヌードを撮りたいそうです。フルヌードです。」
キィイイイイー。
危うくガードレールにこすりそうになった。
私は危うい所でブレーキを踏んだ。
「おっと、事故起こさないで下さいよ。車のCMに出ていらっしゃるんですから。」
「おいおい、なんでそんな話が進んでいるんだ。
私を裸にしてどうする!?」
「アラフォーのイケメンの東郷監督、女性男性共に大人気なんですよ。
芸能人は不倫だ、薬だ、とスキャンダル起すので、企業も戦々恐々ですよ。
そんなタレント使ったら、一気にイメージダウン大損害ですからね。
東郷監督は、アラフォーで貴重な独身、スキャンダルもなく、飛び切りのハンサムと来ているんですから。ほっておくわけないですよ。 スタイリッシュで上質、ギリシャ彫刻のような綺麗なヌードなら男も女もないですよ。」
「小崎君、君は、私を売るのか??」
「売るなんて。監督が”一肌脱いでくれれば”またスポンサー企業増えますよ。世界第4位の経済規模のサッカーチーム、ブラオミュンヘン、3位以内に食い込むのを見たいじゃないですか。」
「やはり、売ろうとしているじゃないか!」
頭痛がして来た。これってセクハラって言うものじゃないのか。
「…写真集の他に、打診が来ているものは何だ?」
「日本のリゾートホテルのCMと、ファッションショーのモデル出演依頼もあります。
「そんなのばっかりだな。」
「で、どうします?ヌード写真集。
選手たちも下着の広告モデルになっている方いらっしゃいますよね。
監督だったらインパクト絶大ですよ。選手よりイケメンって言われていますし。」
「受けるわけないだろ!断ってくれ。」
ヌードになる監督がいったいどこにいる!?あやうく事故起こしそうになった。冷や汗が出る。
なんてこと考える連中だ。
道ノ瀬結が聞いたら、なんて言うか。ふいにパリにいる恋人の顔が浮かんだ。
生真面目でうぶな結が、また鬼の妖精みたいな顔して激怒するのが目に浮かぶ。
ダメだ、ダメだ。冗談じゃない。
「監督、取材はいつに入れますか。試合は水曜と土曜ですよね。月曜日にしますか?」
「だめだ、月曜日はパリにいる。」
「えっ?!パリ?」
「そうだ、その予定は動かせない。」
「また、アウトバーンを、ベンツぶっ飛ばして行くんですか?200㎞/hで? 今度スピード違反したら、速度制限装置つけてもらいますからね。
じゃあ、20日の木曜日に打ち合わせ入れときますね。まとめて会見取材と打ち合わせが入ります。
パリは、僕が把握していないってことは仕事じゃないですよね。彼女ですか?」
「違う。」小崎が言い終わる前に断固として否定した。
「いいんですよ、隠さなくても。あなたの秘書なんですから。女性が複数いたって驚きません。 逢瀬のホテルの手配くらいして差し上げますよ。」
「おまえな。」
小崎は、クラブチームが雇った秘書なので、私が勝手にクビにはできない。
「いいか、火曜には戻って来る。勝手に契約するなよ。」
「わかりました。」小崎はニヤニヤしている。
「ヌードはダメだからな!絶対に。」私は念を押した。
17日の月曜日、私はパリにいた。
もちろん、パリに住む結に逢うためだ。
車のライセンスを持たない結は国際高速列車で来たが、私は車でパリまで行った。
アウトバーンを、小崎が予測した通り200㎞/hで走行し4時間半で着いた。
パリの秋は早く、もう木々が黄色く色づき始めている。
結は、パリ市内16区の高級住宅街のアパルトマン(集合住宅)に住んでいた。
日本人が多く、治安が良く閑静で、警備厳重なのでマスコミに追われる結には良いだろう。
パリのアパルトマンとは、賃貸も所有も含めてのパリの集合住宅のことで、日本のアパートとは意味が異なる。
築100年以上は珍しくなく、古いほど価値がある。
美術館の中に暮らす趣ががある。
この建物様式はオスマニアン建築と呼ばれ、正面玄関が、ホロ付き馬車も通れるように二枚扉になっている。 装飾的な鉄格子の、可愛いバルコニーが特徴である。
1階は、瀟洒なレストランになっていた。
「ボンジュール ムッシュー東郷。」
共同玄関のドアマンが私に声をかけて来た。
私の来訪を、結から聞いているらしい。
玄関を通り抜け、5階の結の部屋に迎えられた。
窓からエッフェル塔とセーヌ川が見える。
若い芸術家らしい瀟洒な部屋だ。
「えっー!!、ヌード写真集?!」
結が、驚いた声を上げた。
こぼしちゃったと、コーヒーポットをいったん置いて、テーブルを拭いている。
「うんざりだろ?」
「見たいかも…。」
「結!?」
「僕も今度写真集出ます。ヌードじゃないけど。」
結が、私の前にコーヒーを置いた。
「結、君ね、もし君がヌードになると言ったら、私は反対するよ。大反対だ。普通そうだろ。」
「僕が、ヌードになるわけないじゃありませんか。」
「私にそういう話が来ているんだ、結は反対しないのか?」
「しませんよ、見たいです。」
結の裏切り者…。
そもそも20歳近くも下の、この青年に同情を求めたのがまずかった。
「チョコ食べる?」と、結が箱を開け、宝石のようなチョコレートを私に差し出した。
東京でもらったパリオペラ座の近くのチョコレートと同じだ。
結が、チョコを美味そうに食べ出した。
「このチョコ、僕のお気に入りなんです。美味しいですよ、東郷さんも食べて。」
「あのね、結!
君以外の人に、いや大勢の人間に裸を見られるんだぞ…。」
「写真集だもん。」
今度はしょっぱい物が食べたいと別の菓子の箱を開けながら、
ふーん、と言った風に聞いている。
「僕、あんまり東郷さんのその…ヌード見ていないです。この前…、怖くて目をつぶっちゃったし。」
結が肩をすくめて、エヘっと恥らうように笑う。
いや、そういう問題じゃないんだけどな。
結は、芸術家だからか、何か、どこか、普通と違う。
「私のヌードが見たいなら、こうして2人でいる時に見ればいいだろ。」
私は、結をソファの上で抱き寄せた。
「そうだね、そうする。」
結の白い指を私のシャツの胸ボタンに導いて、1つ外させてみる。
教えるように、その下のボタンにも、結の指を導く。
「でも、その写真集も見たいかも。」
結は、ふふふと楽しそうに笑い、 動物の子が親の腹の下に潜り込むようなしぐさで私に抱きついて来た。
「おいおい、…。」
釈然としないながら、私と結は2回目の夜を過ごすことになった。
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