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ロミオとジュリエット 24
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私は、結に予告した通り、自分はバイセクシャルであり、バレエダンサー道ノ瀬結と交際していることを認めた。
ブラオミュンヘンの、ファンへのお知らせSNSでのことである。
監督である私がサッカー話題を好きにつぶやく、公式SNSほどの重要性はないSNSでである。
さらりと書いたつもりが、あっという間に、100万もRTされた。
覚悟していた通り、世間は蜂の巣をつついたような騒ぎになった。 特に、日本国内。
結と私の双方のファンからは、祝福とまたその反対と反応はいろいろだ。
でも、1日も経つと、祝福の方が多くなって来たのを感じる。
そして、発表と同時に、メディア各社から
「この件につき、別途ご連絡差し上げたいのですが、よろしいでしょうか。」の書き込みが何百と付いた。
取材申し込みである。
「報道各社皆様へ、ここSNSで記載することが全てで、この件につき個別に取材をお受けしません。」とSNSで返事をした。
更に私は記載した。
「私東郷悟と、道ノ瀬結のプライバシーに関する記事が掲載され、それが名誉棄損にあたると当方が判断した場合には、権利侵害行為として、法的措置を講じます。」
これに、マスコミ各社はぐうの音も出ないと言う風に押し黙った。
さて、ブラオミュンヘン会長のローラ嬢のトップレス写真が載った、週刊Bezの件である。
これが、発売前日に全誌回収となった。
私が指摘した通り、ローラさんが17歳と未成年だった時の写真と判明したのだ。
出版社にとっては、一番避けたい“自主回収”をさせられるハメになったのだ。
週刊Bezの突然の発売中止は、Bezを抱える奇想社のみならず、出版業界に激震が走った。
クラウド上の流出写真を勝手に掲載したことや、当時未成年であったローラ嬢の写真は言わずもがな大問題だ。
発売前日の自主回収は、週刊Bezを出す奇想社にとっても莫大な損害となった。
Bez誌の売り上げは1号あたり50万部を超え、雑誌としては最も売れる部類に入ると言う。
書店は並べる寸前で、首都圏の駅にはすでに出ていて、販売してしまったものもあると言う。
ドイツでの取材費、印刷、流通など莫大なコストをかけて販売できないのは、出版社としては大損害である。
加えて、雑誌には広告がたくさん載るが、これらの収入が一切入らない。
ブラオミュンヘンのシュタイナー会長は、「極めて残念だ」とだけ私に言った。
娘のローラさんのヌード写真が世に出ることはなくなり胸をなで下ろして良いはずだが、 ローラさんは、私ではない別の男性と結婚することになったのである。
ローラさんが、懐妊したことは事実だったそうだ。
もちろん、父親は私ではなく、彼女の結婚相手の同級生だそうで、それを父親であるシュタイナー氏が知らなかっただけのことだ。
私が出した、監督辞任願いは、ブラオミュンヘン役員全員によってあっけなく一蹴された。
提出して即、私の目の前でシュッレッダーにかけられた。
あっという間に、細かく粉砕されて行く。 「辞任は絶対に認めません!東郷監督、あなたはブラオミュンヘンを見捨てるつもりか!」役員たちは私に腹を立てた。
「と言うわけだ。」
会長のシュタイナー氏も、右へならえとばかりにそう言った。
問題になっていた、結の恋愛禁止の違約金を、ブラオミュンヘンが肩代わりする話だが、あれも解消している。
結の恋愛禁止を約束させた日本の企業10社の中で、契約破棄を言った企業は1社もなかったのである。
CM放送中止を望む動きもあったものの、結局、契約に変更はないと発表があった。
結のファンたちが、私たちの関係を好意的に受け取ってくれたからだ。彼女、彼らは企業の大事な顧客なのだ。
私は、ファンの皆様に心より感謝したい。
結のCMは、放送中のもこれから先、放送予定のも、予定通りに放送される。
バレエダンサーやサッカー監督だって、人間である以上、突然の病気になったり怪我したり、予定通りいかないことは多々ある。
ただ、著名人であればあるほど、関係者は多くなり、関連企業が増えて身動きとれなくなるのだ。
日本では、芸能人が薬物事件や事故など不祥事を起こし、CMや制作番組がお蔵入りすることがよくあると言う。
今回の私たちに恋愛は、幸い不祥事だと世論がとらえなかった。
いや、10年前だったら分からない。
LGBTを理解する人が増えたのが幸いだ。
一般世論が、LGBTに差別的でなくて本当に良かったと思う。
LGBTや恋愛が契約違反!と、非難されるとしたら、それは人としてどこかおかしい。
しかし、忙しいスケジュールの合間を縫って、所属するパリバレエ団の幹部と、結と楠本氏が来日して、関連企業に頭を下げまくったのも事実だ。
結の、予定外の来日にファン感謝イベントまで催されて、公開記者会見やらバレエの衣装展示、連日のテレビ出演などで大盛況である。
この盛況ぶりで、カンカンだった結のスポンサー10社は胸をなでおろしたはずだ。
私は、どうしたかって?
私もクリスマスと新年休暇で帰国した。日本での仕事を今日少し残しているが、その後は休みだ。結も、今まだ日本国内でひっぱりだこだが、間もなく休暇になる。
ヨーロッパ内のチーム対抗試合では、我がブラオミュンヘンは敗退してしまったが、来年にまた再起をかける。
選手には、帰宅して英気を養うように伝え、長めのクリスマス休暇を与えた。
私は東京で、休暇前の残りの仕事をこなすため、都心のホテルで支度をしながらテレビを見ていた。
結が、朝の生放送に出ている。
テレビで見る結は、なかなか面白い。
結が、司会者に「特技はなんですか?」と聞かれている。
「役に立たない特技なんですけど、鼻に舌がつくことです。」結がやってみせている。
「舌長いですね。」司会者が感心したように言う。
そんな特技、私は知らなかったぞ。なんだ、キスすると舌が逃げ回るくせにそんな長いのか。
それ、”夜の営み”で役立ちそうじゃないか。
私はくすっと笑った。
「やはり、皆さんが凄く知りたいと思いますのでズバリ聞いてみたいと思います。
道ノ瀬さん、ブラオミュンヘンの東郷監督のことを聞いていいですか?」
私は、ネクタイを締める手を止めた。
「それは…、ダメなんです。東郷監督の書くSNSでしか公表しない約束なんです。」
画面の中の結が言う。
そう、結のスポンサーも交際報道が大きくなることを望んでいない。
「じゃあ、どんな方か少しだけ教えて下さい。」
「とても…大切な方です。」”監督としての評価”でも言っておけばいいものを、結は思わず本音で言ってしまっている。
結の表情がテレビ画面にズームインされる。
白い頬と耳たぶが紅が差したように赤くなったのが見て取れた。
スタジオ内の外野から、おおっどよめきが起きる。
今になって気が付いた結が、しまったーっと顔を両手で覆っている。
これでまた、週刊誌は大騒ぎだ。私は苦笑した。
番組がCMに代わり、ホテルのドアがピンポーンと鳴った。
「監督、お迎えに上がりました。」
小崎だ。
「おはようございます。日本サッカー連盟の式典、その後同連盟幹部の皆さまと昼食会が本日あります。 午後は、Jリーグ視察と続きます。」
「今日もよろしく頼む。」
その日初めて、私は秘書の小崎の運転する車に乗った。 小崎のTOYOTAの後部座席だ。 「今、車の中で見ていたんですが、道ノ瀬さん出ていましたね。」
「ああ。」
「監督、パリによくいらしていましたが、彼女でなく道ノ瀬さんだったんですね。この件では監督本当に大変でしたね。 辞任願まで書かれたんでしょう?」
「秘書の君に、黙っていて悪かった。」
「でも、わかりますよ。監督と道ノ瀬さんの対談が行われた直前、僕は彼のバレエ見たんです。
いや、格好良かったですね。力強いんですよ、演技が大きくてダイナミックで男性的なんです。
でも、インタビューなんか見ると、中性的で本当可憐な感じです。本当にさっきの彼なのかって。」
「小崎君、私より結を見ていないか?」
「いや、監督でなくても、道ノ瀬さんならイケるっていう男性多いですよ。妙に色っぽいですから。」
「イケるってなんだよ!?色っぽいだと!?」
「おっ、珍しく熱くなりますねぇ監督。惚れていますねー、道ノ瀬さんに。」
「からかわないでくれよ。」
私は、車のシートに深く腰掛け、息を整えた。
「今夜、どうされますか?夕食のレストラン予約しておきましょうか。ステーキとか、寿司とか何が良いですか。
「いや、”約束がある”ので、いい。小崎君、君もご家族の元へ帰るなり、お好きなように。」
「ありがとうございます、そうですよね。監督は、道ノ瀬さんとご一緒ですよね。
「ご想像にまかせる。」
その日の夜、私は、結のご両親に泊りがけで自宅に招待されていた。
クリスマスは、結と結の実家だ。
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