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ロミオとジュリエット 26
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結が、私の実家に行く気でいる。
結の両親は、LGBTにも詳しい弁護士だから、あっさり受け入れていただけたが、うちの親はそうはいかない。
特に、親父…。
とにかく、私と父は、事あるごとに対立して来た。
サッカーの道に進む私を、ことごとく妨害したのも親父だ。
最近は何とか小康状態を保っているが、私のヌード写真集が出たり、バイセクシャルで男性と交際発表したり、埋火だった火種が、再噴火するのは間違いない。
今頃、親父だけでなく、家族親戚で大騒ぎになっているはずだ。
そんな所へ、結を連れて行けるわけがない。
火に油も良い所だ。
そんな気も知らず、結はいそいそと、お母さんが準備しておいてくれた朝食を食卓に並べている。
シンプルな白いエプロンまでして、卵とフライパンを交互ににらめっこしている。
私と結が起きた時、結のご両親はもういらっしゃらなかった。
「ご両親は?」
「年末の買い出し。普段二人とも仕事しているから、休みの日は買い出しに行くんだ。」
「そう。」
「ねえ、東郷さん、目玉焼きってっどうやって作るんだっけ?母のメモに目玉焼きは作って、と書いてある。」
結は、料理は出来ないと言っていたが、そういうレベルか。
私がフライパンを熱して、オリーブオイルを入れて、片手で卵を次々と割り入れた。
「水を少し入れて、蓋をすると良い。」
結が、言われた通りやっている。
しばらくして、蓋を開けるとうっすら白みがかった半熟の目玉焼きが出来た。
「え、すごい。出来ている。」
「そのくらいで、すごいって言うなよ。笑」
「東郷さん、本当に料理手慣れているね。」
ターナー(フライ返し)を使う結を、後ろから片手でキュッと抱きしめてやる。
結が、ご飯をよそってくれる。
「なんか、幸せ。東郷さんと日本で朝ごはん食べるのって。新婚ってこんな感じ?」
結が嬉しそうに言う。こんな所は、本当に可愛いと思う。
毎日、一緒にご飯食べたい、と結は言っていた。そういう日が来ることを願ってやまない。
「ねえ、東郷さん。年末年始休暇はいつまで?」
「1月19日が年明け初戦で、全体トレーニングが16日に始まるので、15日までかな。」
「行けるよね、東郷さんのご実家。僕も、休暇中なので、自由だよ。」
「あのね、結、スケジュール的問題だけじゃないだろ。君のご両親はご理解のある方だからいいけど、うちは前途多難なんだよ。”戦場”に君を連れて行くようなものだ。」
「昼ドラみたいなの?!ドロドロ?わくわくする。」
「なんでだよ。結は、昼ドラなんて知らないだろ?」
その時、私のスマホが鳴った。
LINEの着信音だ。
休暇中なのに、誰だ?
私がスマホを取ったのを、結がご飯茶碗を持ったまま箸を止めて、見ている。
「恵(めぐみ)だ。」
「誰それ?!」結の声が低く、地の底から響いてくる呪いのようだ。
「何を心配しているんだ。妹だよ、上の妹。パン職人の方。」
「妹さん?」途端に、結の声が軽快になった。
逆に、私は妹の恵のLINEを見て、ため息をついた。
「君のことが、書かれている。」
私は、結の前にスマホを置いた。
「お兄ちゃんのSMS見た!新しい恋人ってバレエの道ノ瀬結さんなの!?!凄い!!
マジ?!!?でかした!うちに連れて来て!!バレエ王子のサイン100枚くらい欲しい!!!!」
それを見て、結が喜色満面の笑みを浮かべた。
「ほうら、僕が行かなきゃ!」
妹たちはそりゃあ、バレエ王子が来たら狂喜乱舞だろうよ。私のバイセクシャル問題なんか、一気に吹っ飛ぶ。
でも、シニア層のうちの両親は、LGBTに理解を示してくれるかどうか。息子がそうだと知ったら。 そして、うちの親からしたら孫みたいに若い”嫁”を連れて来るとなったら。
特に、あの頑固おやじ…。
あれこれ考えると、頭痛がして来た…。
「ねえ、妹さんのメールに、”新しい恋人”ってあるけど…。”古い恋人”もいたの?!ねえったらっ!」結が、尋問するような口調で言いだした。
「そんなこと、いちいちヤキモチ焼かないでくれよ。こっちは大変なんだから…。」
私の言い方に、結が魚のフグのようにふくれている。
「結、私たちが知り合ったのは今年なんだ。それまで、お互いの人生があっただろ。」
「僕は、誰とも付き合ったことはなかったです!」結は、大いばりだ。
「だから…、私たちは生きてきた年月が違うんだ。」
私たちは、19歳も年の差がある。
私がサッカー選手になった頃、ようやく結が生まれたのだ。
「いいです、許してあげます。これからは絶対ダメですけど。」
「ありがとうございます、王子様。寛大なお心に感謝します。」
「よろしい。」結は、本当に王子のような物言いで言った。
「じゃあ、東郷家に行くことにしましょうか。」
「本当に行くのか?」
「当然でしょ!」結が、iphoneでスケジュールを調べだした。
「東郷さんのお母さんのパン屋さんって、お正月は忙しいの?」結が言った。
「休みは元日だけ。パンの他にも季節商品を作るんだよ。シュトレンと言うドイツ風のクリスマス菓子を年内売って、年明けは2日から新年用のお菓子やケーキを売り出すんだ。」
私も、スマホでスケジュールを見る。
「毎日、美味しそう~。」忙しいと聞いて遠慮するかと思いきや、結にそんなつもりはないようだ。
「じゃあ、都合を聞いてみるから。」私は、仕方なく言った。
私は、先ほどLINEをよこした妹の恵(めぐみ)に返事を書く。
”年末年始に、ちょっと実家に帰るから。”
返事は即来た。
「道ノ瀬さんを、連れて来るの?!」
私より、結が来るかどうかが重要らしい。
「そう。」
「きゃっほー!お店のある日ない日も、大丈夫です~。全日空けてお待ちしています!道ノ瀬さんによろしくお伝えください!」
まあ、店が営業中でも実家はドアを隔てているだけなので、来客は問題ない。 母親には、結との間柄について事前に説明しておくか?
妹にそれとなく頼むか?
上の妹は母と同じパン屋の店内で働いていて、母親とは何でも話しているはずだ。
いや、伝言ゲームのようになって違う風に伝わっても困るので、直接私が両親に言った方が良い。
「結の来訪は、当日集まる家族以外絶対に内密にして、他言無用。マスコミが実家前に張り込むと困るから。」私は妹にそれだけ念を押した。
「な~んだ、東郷さんが”戦場”とか言うから、僕たちのこと反対なのかと思った。安心~。」
結が、のんきに言う。
実家に帰るのも、結と私の家族を会わせるのも冷や汗ものだ。
ヌード写真集は出るわ、しかもバカ売れし、バイセクシャルが露見し、今度連れて行く”嫁”が男と来ている。
親父は厳格で気性が激しく、自分の意にそわないことを極端に嫌う。
あの頑固親父め、結を見て、何を言うかわからない。
”男を連れて来たのか、この馬鹿め!”くらいの罵倒はするだろう。
果たして、それで済むのか?親父のしかめっ面を思い浮かべ、私は頭が痛い…。
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