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××であることの定義① zmem
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久しぶりに、バスに乗る。
そのバスは駅に向かって走っていて、ゾムさんと共に演劇を見た帰りにはちょうど良かったのだ。
私は彼の斜め前に座っている。
私はあまりバスに乗ったことがないので分からなかったが、座席が向かい合わせになっており、正面だと足がぶつかるという理由から、この位置に落ち着く結果となった。
zm「なぁ」
彼が私の顔を伺う。
zm「隣でも良かったやん」
em「…」
私は彼の言葉を無視し、窓の外を眺めた。
私は知っている。彼が私を好いていることを。
zm「…」
彼は無言で私の隣に座った。
em「…なんで隣来るんですか」
zm「いいやんいいやん」
私の手を握る。
私の指と指の間に、彼の指が入り込んでくる。そしてそのまま、彼の長い中指で、私の薬指にある結婚指輪をなぞった。
em「…」
彼はまるで、恋人に接しているかのように私に触れる。私は最初こそは恥ずかしかったものの、彼はそういう人間なんだと割り切るようにした。
zm「結婚式、呼んでくれへんかったやん」
em「…すみません、言わなくて」
もちろん私は結婚などしていない。
今日は、彼にこれで諦めて貰うためにつけてきたのだ。この指輪は母の遺品。私はそれを利用しようとしている。しかし、そんなことを言ってる暇などなかった。早く諦めさせなければいけない気がしたからだ。
zm「まぁもういいけどな(笑)」
彼は握っていた私の手を離す。
em「…」
zm「…」
それからしばらく沈黙が続いた。
彼は私を好いている。ただ、関係はこれからも変わらない。
怖いのは、私に恋人が居ないと勘づかれてしまったときだ。
zm「あのさ」
先に沈黙を破ったのはゾムさんだった。
em「…はい」
zm「…今度またどっか…行こうな」
彼は酷く辛そうに言う。私は静かに
em「はい」
と言った。
彼とは仲のいい友達でいたい。だからこそ、私は知らないふりをしていなければいけない。
zm「…あ、次降りるやんな」
em「そうですね」
私達は駅前でバスを降りる。
先程、暖房の効いたところにいたせいで、外が至極寒く感じる。私は少し身震いをした。
zm「寒いん?」
彼は自分のしていたマフラーを外し、私の首に巻き付ける。
em「悪いですよ…」
zm「いいんやって」
私ははにかむように言った。
em「…ありがとう…ございます…」
彼は軽く私の頭を撫で、前を歩いた。
私は、彼が本当に私を諦めてくれたのか不安になった。
彼の気持ちを知っているのに、知らないふりをする。
冬の寒さが私の心の冷たさを風刺させた。
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