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商社 1
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松田浩平が、その辞令を受け取ったのは、2010年1月のことだった。
「松田君、君は今いくつだ。」
「28歳です。」
「わが社は、君を米国留学させたいと考えている。
MBA(経営学修士)取得を、してもらいたい。
もちろん費用は、社が全額負担する。
査定、幹部候補生としての君の将来性を鑑みて、社が出した結論だ。
前向きに、考えてはもらえまいか。」
広中専務からの、直々の勧めであった。
松田は一瞬驚き、明瞭な声で言った。「考えさせて下さい。」
「海外の大学を出ておいた方が、ビジネスには俄然有利だ。
多くの若手社員の中から、社の首脳部は君を選んでいる。」
MBA取得には、2年の留学を要する。
松田は、広中専務の脇に立つ、部長の入江をちらりと見た。
顔色一つ変えず、無言で立っている。
入江清一郎。
今年、37になるその男は、ほっそりした肢体を薄青いドレスシャツとイタリア製のオーダースーツに包んでいる。
精悍で、気品があって、艶やかな色気を持つ大人の男だ。
こうして、他人の顔をしている時も、綺麗だなと松田は心から思う。
昨夜、入江のまだ誰も触れたことのない”中”を蹂躙した感触が、指の腹に残っている。
柔らかな、でも引きつれる様な狭い襞を思い出すようにして、指をこすり合わせ手
のひらに握り締めた。
松田の絡みつく視線を跳ね返し、入江はきりりとしたビジネスモードで寸分も寄せ
付けない。
たまらない、そのクールさ。
広中専務はもちろん、俺たちの関係に気付いてはいない。
ごく事務的に、しかし熱意を持って言った。
「では部署に戻ってくれ。良い返事を待っている。」
松田は、深く一礼し専務室を出て、廊下で肩の力を抜くと大柄な体を伸ばし、一呼
吸ついた。
上岡商事、わが社は、130年の歴史を数える、日本屈指の商社だ。
国内15箇所、海外90箇所210の拠点と、150社のグループ企業からなるグローバ
ルカンパニーである。
”哺乳瓶からミサイルまで”、世界中を飛び回り、必要な品を、必要な所へお届けする。
ここでは余っているが、別の場所では足りない、このギャップを埋めるソリューシ ョン
(解決が我ら商社の仕事だ。
その、EU(欧州連合)第3部門・部長が、入江清一郎。
俺の直属の上司で、恋人。
調理器具に、コーヒーメーカーなどの電化製品、バギーなど、ヨーロッパ製家庭用品を扱う
部署だ、しかし輸入は現地系列会社が行う。
入江は、その会社に指示を出す、社で一番若い部長だ。
大きな商社は、買い付けを、現地系列企業に任せるのが普通だ。
東京にある本社は、それらの指令、統括のほか、持株管理をしている。
俺が6年前入社する頃、入江が管理する子会社の、ヨーロッパ製卓上ポットが当たった。
飲む分だけ湯を沸かすポットはそれまで、日本にはなかった。
需要は一気に拡大し、数億のビジネスのはずが、あっと言う間に10倍20倍の売り上げを記録し、
異例の若さで部長に抜擢されたのだ。
松田は、昼食時社員食堂で、入江にメールを打ってみた。
入江は、その場にはいない。
留学の件、入江部長は事前に知っていたのだろうか。
昨日は、何も言わなかった・・・。
部長としての彼を熟知していても、プライベートとなると、まだ謎な部分も多い。
留学となると、俺たちの関係はどうなる?
せっかく、付き合い始めたと言うのに、離れ離れになるなんて、到底我慢できない。
あの色っぽい部長のことだ、絶対誰かに何かされちゃうに違いない。
今日だって、色合いは地味だったが、粋なイタリアンスーツに薄紫のネクタイなんか締めて。
部長のマンションの、ウォークインクローゼットに下がっていたのを知っている。
特別高価なのを、買うわけではないが、商用でヨーロッパに行った時、何着かオーダーするのを知っている。
なじみの店員が部長の首、胸囲、ウエスト、ヒップ、手首、体中くまなく採寸するのを想像して、余計な嫉妬に駆られた。
隣の席でガタンと音がして、声をかけられた。
「松田!」
「お、林。」
同期の林が、昼飯の定食をテーブルに置いた。
「おまえ、留学するんだって?」
「いや、まだわからない。」
「良いよなあ、優秀な人材は。社の費用で全額出してもらえるんだろ。」
「・・・。」
林は、声を潜めていった。
「俺さ、今度結婚することになってさ。」
「へぇ。」
「お前、留学前に披露宴でスピーチ頼むよ。」
「スピーチ?」
「お前はまだか、嫁さん?
決まった人がいるなら、連れて行った方が良いぜ、アメリカ。
置いて行ったりしたら、もうお前のものじゃなくなる。」
林は、上目遣いに言った。
「付いて来てくれ、なんて言えるわけないだろ。(上司に)。」
「おっ、キャリアウーマンか。」
「まあ、そんなところさ。(ウーマンじゃないけれど。)」
「とにかく、プロポーズだけは、しとけ。」
「無責任に言うなよ。」
「とにかく、スピーチ一発頼む。」
林は、もぐもぐと口を動かせながら、食べ終わると、食器を早々と重ね立とうとしている。
俺は、携帯のディスプレイをまた見た。
入江からの返信メールは、来ない。
「あ、松田、お前のお気に入りの部長、さっき玄関の車寄せで顧客を接待していたぜ。ビジネスランチかね。」
「えっ?!」
驚く俺に、林は声を潜めて付け加えた。
「客は、ハゲ熊だったぜ。ありゃ入江部長に相当ご執心ですな、鼻の下伸ばしてさ。笑」
「それ本当か!?」
「じゃあな、スピーチよろしくな~。」
入江部長が、顧客連に大モテなのは知っている。
綺麗で精悍な見た目なのに、親切な上、手際が良いから、接待役に是非ともと、指名してくる
人間もいるくらいだ。
ハゲ熊、うちの重要な顧客企業NT輸送の社長だ。
接待もプロジェクトの締結も、入江部長をよこせと言って来る、部長にいつ飛び掛るか分から
ないぞ、ハゲ熊の奴。
おだて上手な部長にだって罪はある、何もあんなハゲ熊の機嫌をとらなくても。
午後部署に帰ると、金曜”入江部長外出、NT輸送社へ19:00まで、
その後帰宅。”とボードに表示してあった。
19:00まで!ハゲ熊と?!もう、俺は不安でいっぱいになった。
そのまま、帰宅が許されるのか?!
松田は、いやな予想がした。
松田は、昨日からたまった海外からのメールを片っ端から処理する。
午後5時に、時差8時間のヨーロッパ企業が業務開始するので、電話がけたたましく鳴り始める。
英語はもちろん、フランス語ドイツ語が飛び交う職場だ。
それでも今日は、そんなに仕事は多くない。
仕事相手のヨーロッパの国々が、祝日だからである。
キリスト生誕の時に、東方から来た3人の博士の祭りなんだそうだ。
キリスト教国は、信仰関係の休日が実に多い。
とにかく俺は、無理やり19:00に退社した。
電車に飛び乗り、山手線の駅を降りると入江のマンションまで駆けた。
商店街の中を、がたいの良い男がコートの裾を乱し、走るのを唖然と見ている塾帰りの子供。
いいんだ、お兄さんは忙しいんだ!
”付いて来て”とは言えなくても、心と体はつなげておかねばなるまい。
心はつながっている、たぶん・・・。
体は、まだだ。
坂道をスピード落とさず登り、彼のマンションを囲う並木道が見えてくると、
かばんを脇に抱え、全速で走った。
ゲートをくぐり、車寄せ付きのエントランスに飛び込む。
部屋のナンバーを叩く様に押した。
ピンポーン、呼び鈴の音がする。
帰ってなければ、そこのソファで待たせてもらう。
エントランスには、活け花と白いソファがあり、ホテルのような、しつらえだ。
30分待って来なかったら、NT輸送社に行ってやる!
「はい。」
出るのに時間がかかった、しかし声がした。
俺は、胸をなでおろした。
「浩平だよ。」名前を言わなくたって、そっちの画面には映っているはずだ。
息を乱しながら答えると、共同玄関の自動ドアが開き、エレベーターに無我夢中で駆け込む。
玄関ベルを鳴らし、ドアが開くと、彼の体を掻っ攫うように抱きしめた。
締まった体にグレーのカシミヤカーディガンが柔らかい。抱きしめるのに、心地いい。
「走って来たのか。」
声は、もっと柔らかかった。
この人を手に入れるまで、いやまだ完全に我が物にしたわけではないが、ここまで来るのに、
6年かかったのだ。
「清一郎・・・、」
俺が、熱にうなされたような声で呼びかけると、部長が顔を上げた。
何か言おうとした唇がぷつっと開き、濡れている。
たまらず、唇を合わせようとすると、部長が言った。
「うがい、手洗いしろよな。」
「んったくっ、ムード壊れるよ!」
「ムードは壊れても、インフルエンザにはかかりたくないんでね。」
俺は、しぶしぶ体を離し、勝手知ったるパウダールームに向かい、洗面所でガシガシと手を
洗った。
ガラガラとわざと音を立てて、うがいをする。
パウダールーム入り口に立つ、部長が鏡に映った。
「夕食、食う?」
「ご飯も魅力的ですが、その前に部長を食いたい。」
「こら、よさないか!」
部長は言ったが、俺は構わず、部長を抱き上げた。
綺麗な筋肉のついた体は決して軽くはないが、有無を言わさず抱き上げるとベッドルームに
踏み込み、ベッドに放り投げた。
スプリングがはねる。
「浩平!」
起き上がろうとした所を、重たい体でのしかかる。
抗うのを、上から体重をかけて押さえつける。
柔らかい部屋着のパンツと下着の中に、直接手を入れた。
「いやだっ。」
「大丈夫、いきなり入れたりしないから。」
「昨日だって、そう言ったくせに・・・。」部長は、信用できないというような口調で俺を
責めた。
「だからぁ、本物は入れてないでしょ。」
そう、俺はまだこの人と一線を越えていない。
「昨日みたいなのは、ごめんだからな。」
触れ合うだけのそれまでと違い、昨日、下着を下ろし指を入れたのを怒っている。
そんな、子供じゃあるまいし。
だが、”痛いだの査定を落としてやる”など散々言われ、結局俺が萎えた。
社での精悍でクールな印象とは違い、ふたりきりの時はすねるし、
9つも下の俺に わがままを言う。
勢いでやっちまえば良かったのかもしれないが、嫌われたくないし、
査定を落とされても困る。
「ちゃんと、受け入れられるようにするから。」
俺は、欲情に上ずった声で言った。
部長の足の間に、抵抗されないようにさりげなくお互い着衣のまま、腰を入れる。
ちょうど彼のそこに”自分”が当たるように。
俺の既に固くなった物に、部長がぎくりとしたのが分かった。
上から両手で手を握り、斜め下から腰を合わせるようにして、突き上げるような動作をする。
「こんな風にされるのは、いやですか?」
眉根を寄せて、しかめっ面をしている。
「・・・。」
返事がないのをいいことに、俺は彼の手首を掴んだまま、腰をぐいぐいと押し付ける。
全くのノーマルだったのか、未だ、男を知らないのはわかっている。
こうやって組み敷かれる体位に、戸惑っているようにも見える。
かといって、”攻め”の要素はゼロだ。
女性とだけ、恋愛して来たのか?
その年なら、結婚しようと思った相手だって、いただろ?
今まで、いったいどうなっていたんだよ?
聞きたいことはいっぱいだが、聞いて、知りたくない内容が出てきたら・・・、
例えば、バツイチで、大きな子供がパパーと、突然訪ねて来たりしたら・・・。
そんなことになったら、ショックで立ち直れない。
ガタイは良いけれど、俺はデリケートなんだ。
彼のそこに押し当てているうちに、もうどうにもエキサイトしてしまい、
俺は、むしり取るように、彼のパンツと下着を引き剥いだ。
「浩平っ!」
「もう我慢できません!」
前をイかせることもなく、裸の足を押し開こうとした途端、部長が言った。
「おまえ、留学決めたのか。」
「へっ・・・?。」
熱くなっていた俺は、冷や水を浴びせられた。
「まっまだ、決めておりません。」部下の口調になって答える。
部長は、押し倒されたベッドから起き上がり、縁に座った。
せっかくの形の良い尻が、シャツで隠れてしまった。
乱れた髪を、かき上げている。
「将来のことを考えたら、絶対行くべきだ。」
「そうですよね。で、部長いや、清一郎は一緒に来てくれるの?」
思い切って、尋ねてみた。
「何で私が。子供じゃあるまいし、ひとりで行けよ。」
「じゃあ、待っていて下さるんですね。休暇には帰ってきますから。」
「待ってなんていない、浮気してやる。」
俺は、頭を抱えた。
ベッドの縁の部長を再び引きずり込み、体の下に入れた。
「あっ!!」
「じゃあ、離れられないように、抱かせていただきます!」
冗談じゃない、この人が誰かのものになるなんて、
天地がひっくり返っても許せるものか。
俺は、噛み付くような口づけをしながら、彼の裸の下半身をまさぐった。
起き上がって来るそれに、松田の長い指が自由奔放に走る。
しばらくして果てさせると、濡れた指で、未だ破瓜されていない蕾に触れた。
吸い付くような感触に魅了されながら、指を強く押し当てると、
身をよじり上に逃げられた。
拒絶する様さえ、悩ましげだ。
「今夜は、逃がしませんよ、部長。」
会社を出る時から、清一郎を初めて抱こうと決めていた。
完全に我が物にしてしまわねば、気が気でない。
「このまま、離れ離れになるのはごめんです。
忘れられない絆を、作っておくんです。」
不安げに見る部長に、俺は真上から言った。
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