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何を、書こうか。
手に取ってしまえばもう使わないという
選択肢は岡本の頭の中からは消えていて、
彼の体のどこに何を書こうかというところ
まで思考は走り出していた。
一度書いたものの上に重ねて同じ文字を
書けばそれが長い時間継続することも、身
をもって知っている。
だったら…。
岡本は眠っている彼のシャツをずらした。
もともと制服のシャツのボタンをいくつ
か外したまま過ごしている高取の首元には
余裕がある。
項から背中にかけて狭い面積ではあった
が高取の肌が露わになった。
その肌を見たらもう我慢などできなくな
って、もどかしいようにキャップを外すと
岡本は一心不乱にたった一つの言葉だけを
ただひたすらに上書きし続けた。
時計の秒針の音と静かな彼の寝息だけを
聞きながら、マジックのインクで高取の首
まわりを汚していく。
すっかり時間を忘れて書き続けた岡本が
ハッと我に返った時には、上書きしすぎた
高取の肌は真っ黒に汚れており文字を書い
たはずがすっかり読めない程に塗り潰され
ていた。
「……」
気づけば手の中のインクは空で、それに
今更気づいてしまったと思うより不思議な
達成感が岡本を包んでいた。
【やれやれ…そろそろ“食べ頃”かと思っ
て来てみれば…。
すっかりインクを使い切ってしまったの
か】
二人のほかには誰もいないはずの部屋に
見知らぬ声が響く。
岡本が驚いて部屋を見回すと、本棚の影
から人影が浮き出してきた。
思わずわが目を疑い動けずにいる岡本に
その影は歩み寄り、既にまっ黒くなってい
る高取の首回りをひょいと覗き込んだ。
【ククッ、面白い。
そのペンでさんざん虐げられ、嬲られた
者達はペンを手にすればあっけなく使い
手を殺したというのに。
お前はそんなにこの男を欲するのか?】
書いた本人にさえ読めない黒くなった肌
の上にまるで何を書いたのかを読み解いた
ようにその影は嗤う。
岡本は警戒するように返事を躊躇ったが
それすら見透かしたように影は笑った。
【怖がらなくてもいいさ。
この男にそのペンを渡したのは俺だ。
そのペンはこの男との契約だが、お前が
この男を欲するならお前と契約を交わす
のも悪くない】
「どんな…?」
怯えを滲ませ警戒しながらも誘惑には勝
てずに問いかける。
それを見て悪魔はニタァと嗤った。
【そうだな…。
その男は今後他の誰かの主になることは
ない。
お前以外の誰かに欲情することも、或い
は契ることもない。
お前の望みどおり、一生お前だけの主人
でいるように魔法をかけよう】
今しがたまでわき目もふらずに書いてい
た願い。
それを言葉にならないことまで見透かし
たその影は、本当にその願いを叶えるだけ
の力があるように思えた。
「対価は?」
【おや…なかなか聡いな。
聞いてもすぐに飛びつくような愚か者で
はない、か】
ますます面白そうに笑みを深める影はそ
のままスッと目を細めた。
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