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インクの切れたペンが、今までの事は夢
でなかったというように枕元に転がる。
先ほどインクで黒く汚した肌にそっと触
れると、眠っていたはずの高取がピクリと
震える。
彼を襲っていた眠気がもともと体に必要
だったからではなく、ペンの中が隙間なく
インクで満たされたことであの影が彼を喰
らおうとしていて魔法をかけたのなら不自
然ではない気がした。
「ん…」
身じろぎする高取を見て起こしてしまっ
たのかと岡本が顔を覗き込んでいる間に彼
の寝息は再び深くなっていく。
かけられていた魔法が解けてもスイッチ
の切り替わった体がそのまま本当の眠りに
落ちていくように。
そのゆっくりとした寝息を聞きながら、
青年は初めて訪れた心穏やかな時に目を細
めた。
眠る彼の体温を求めてそっと起こさない
ように抱き着く。
高取の匂いに包まれながら満たされた心
地で目を閉じる。
背中越しに聞こえるこの鼓動も何もかも
が愛おしくてたまらない。
勝手に悪魔と契約したことを知ったら彼
は怒るだろうか?
詰って責めたてて怒り狂うだろうか?
いや、そもそも岡本はマジックペンのこ
となど知らないことになっている。
高取が悪魔と交わした契約も知らないこ
とになっているのだ。
ならば高取自身がそれに気づくまではこ
のままで。
岡本だけの主として、マジックのインク
が溢れぬようにずっと落書きをし続ければ
いい。
そうして高取が彼自身の手によって青年
から離れられなくなってしまえばいい。
彼の手が与える苦痛ならば快楽に変わる。
彼が見ていてくれるなら大抵の責め苦に
は耐えてみせる。
そしてそうしているうちに、彼は欲求と
罪悪感と契約の中で雁字搦めになって岡本
から離れられなくなるだろう。
それで、いい。
彼自身に気づかれずに高取をこの腕の中
に留めておけるなどどれほどに甘美な夢だ
ろう。
或いは彼自身の与える責め苦の末に見る
夢はどれほどに幸福だろう。
岡本は首を伸ばして眠る彼の唇にそっと
口づけて目を閉じた。
END
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