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屋上2=SIDE H=
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突然、眼鏡を奪い取った先輩は、無意識にかオレの顔を覗き込んで微笑む。
元々端正で華やかな顔立ちの笑顔には破壊力がある。
思わず目を反らして、ダテだということがバレたのにも少しイラつきながら眼鏡を奪い返した。
アニキには似ていないから、そっち関係で絡まれることはなかったが、目つきは鋭すぎて眼鏡を掛けていないと、喧嘩を売られることは結構あった。
「綺麗な顔してるのにな」
まだ残念そうな顔をしている先輩こそ、華やかな顔をしていると思う。
どちらかといえば、クラスの中心にいるようなタイプである。
きっと中学の頃はみなに好かれていたに違いない。
「先輩は中学時代はヤンキーじゃなかったんでしょう」
「あー、まあ生徒会長とかしてたな。ずば抜けて頭がいい訳じゃあなかったから、努力しまくってたけどな」
この高校にくるのは二通りタイプがある。
何でもすぐに出来てしまう、天才タイプと、非常に頑張ってくる努力タイプ。
「僕は努力も才能と思いますよ」
「でも、この学校じゃかなわねえからな……いくら努力しても……地を這いずる」
パンのごみを袋にしまいながら、空を眺める先輩は、地を這いずりながらもどこかで空にいきたいと願う働きアリのようだ。
「諦めたわけですか」
静かに問いかけると、先輩のカラーコンタクトを嵌めた緑色の目がちょっと細められて、オレを自嘲に満ちた表情を浮かべて見返される。
「……カッコわりいだろ」
格好悪い、そう思ってどんどん自分を追い詰めてしまったタイプなのだろう。
こんな短い時間の中でもそんなことすぐに分かる。
最初は努力したのだろう。
でも、すぐにその努力が追いつかないことを知る。
「そうですね。」
オレはカッコ悪いと嘯く先輩を見てられないなと思う。
なんとかしてやりたいと思う。
そんな義理はないのに。
綺麗な顔をした、ちょっと寂しがりやで意地っぱりでプライドの高い先輩を放っておけなくなっているのだ。
友達になったから……だろうか。
今までに友達と呼べる人間は近くにいなかった。
オヤジやアニキのことを知ると大抵のやつは、距離を置いた。
なのに、この先輩はアニキを見てなのか友達になれと言ってきた。
同じぼっち体質の匂いを感じたからなのかも知れない。
「否定もしねえのな。まあ、らしいけど」
「……先輩、もし勉強できるようになったら、その格好やめますか」
オレは救われないけど、この人は輪の中に戻れる人だ。
なら、その手助けをしてもいいかもしれない。
「は?」
意味が分からないといった様子で、弁当を片付け始めるオレを先輩は見返す。
「僕が、先輩に勉強教えます。先輩は努力できない人じゃないから、トップ10までには入れますよ」
「何言ってるの?」
ちょっとバカにしたような表情を浮かべる。
「プライド高いの分かりますけど、僕、高校3年間の勉強ひととおり全部できますから」
だてに首席をとって入学したわけじゃない。
高校三年で、応用をすべて叩き込んで、一流大学に入り研究室へ入るのが目的だ。
ヤクザの息子が、一般の大手企業には入れるわけが無い。
表舞台にたてるわけがないから、オレの能力をいかせるところを探すために常にオレは必死だ。
ここに来て勉強だけしているのんきなやつらとは違う。
「……1年なのにかよ」
「アニキの宿題をこなしているうちに全部できるようになりました」
アニキに一夜づけでも勉強を教えているううちに、それなりの知識は詰め込んだ。
応用するのも、アニキの高校にない教科を会得するのも差異はない。
「北高とここのレベル、ダンチだろ」
「僕が応用くらいできないと?」
「へーへー、そういや首席様だったよなあ。すげえなあ」
感想を漏らして、ふっと寂しそうな表情を浮かべる。
「この格好いやか?」
金髪も派手な顔に似合っていると思う。
身長も高いし、横を歩けば目立つ体躯である。
だけど、そんな格好していたら、危ないと思う。
悪いやつらはそういう派手なやつを叩きのめしたくなる性分なのである。
「風紀じゃなければ、どうでもいいです。先輩が無理してるように見えるから、気になります」
本当はみんなの輪の中に入りたいはずなのに。
こんなところで、オレと一緒に飯を食べていていいわけないのに。
「無理ねえ……いや、勉強できるようになっても、俺はこの格好やめねえよ」
強がりのように言って、ぐしゃっとごみを握りつぶす様は少し苛立っているようにも見える。
「でも、できるようになったほうがいいですよ。先輩は地を這うべきじゃない」
「……オマエやなヤツ。……じゃあ……トップ10とったら……髪色変えるよ」
やなヤツと言ったくせに、先輩の顔は少し和らいで見えた。
多分、髪の色を変えてトップ10に入れば、先輩の周りはきっとまた華やぐ。
そうすれば、オレはお役ゴメンだな。
「半年で、入れますよ」
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