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教室=SIDE H=
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絵に描いたようなイジメの構図に、思わずオレは笑ってしまった。
こんな進学校でも、こんなバカがやるようなイジメなんて存在するのだな。
オレの机の上に撒かれた雑巾水と、転がったバケツ。
こっけいすぎて笑えてしまう。
中学時代は、アニキを恐れてオレにこんなことをするやつらもいなかったが、この高校にオレの中学から来ているのは、一人くらいで同じクラスでもない。
教室は水を打ったように静まり返っている。
「……大丈夫?長谷川君」
オレは黙って濡れた雑巾をバケツで絞って床と机を拭う。
前の席の根元が心配そうに覗き込んでくる。
「2年生の……先輩たちが来て…、怖くて何もできなくってごめんな」
そりゃあ、先輩たちが乗り込んできたんじゃ普通は怖いよな。
根元は、眼鏡の奥の小動物のような目を揺らしてオレを心配してくれている。
「いや、気にしないでいいよ。人に怪我があったわけでもないからね」
机の中の辞書や教科書も濡れていたが、乾かせばなんとかなるレベルである。
「長谷川、ここにきたの楠木さんの親衛隊だったけど、目をつけられたりした」
隣の席の杉村がオレの腕を掴んで、心配そうに問いかける。
見て見ぬふりかと思ったが、クラスのやつらは結構優しいところがある。
恵まれて育てば、いろいろと心も豊かになるのかもしれない。
「ちょっと、副会長と揉めてね。」
「気をつけろよ。楠木さんの親衛隊は、他校にもいるし、お金でリンチかけたりするって聞いたことがある」
「大丈夫だよ。僕は暴力に屈しないから」
心配そうな杉村に、静かに言葉を返すとベランダに辞書と教科書を干しに行く。
「その辞書使うのか?」
杉村はベランダをあけて、オレが気になるのか声をかけてくる。
「ああ、使うよ。まあ、使えそうになかったら、兄弟のと擦りかえるけど」
アニキはどうせこんな英和辞書なんか綺麗に保存しているに違いない。
取り替えても卒業するまで気がつかないだろう。
「長谷川、知らないと思うからいうけど、東高のやつらとか、ヤクザのちんぴらとかとかわらないんだぞ」
杉村は、親切に忠告をしてくれる。
確か、バスケット部に入っているスポーツマンで、一高では珍しいオールマイティの男だ。
教科書を天日に干しつつ、東高の怖さを語ってくれる杉村は本当にいいやつなんだなって思う。
「喧嘩は、慣れてるんだ……あんまり、歓迎する理由じゃないんだけどね」
「優等生同士の喧嘩と違うんだぞ、こんな腕……じゃ」
オレの腕を掴んだ杉村は、ちょっと眉を寄せた。
多分、鍛えているのがスポーツマンなら分かるはずだ。
「僕の兄は、北高にいるんだ。北高のハセガワって言えば、結構有名でしょ」
「……え……。中学のときに東高を二人で潰したっていう……」
杉村は目を白黒させながら、オレの話を聞いている。
いつも事実を意知ったやつらが浮かべる侮蔑や嫌悪の表情は杉村にはない。
「ああ。中学の時からそんな調子だからね。勿論、僕も標的になったよ。だから、兄の荷物にならないように、自分の身は自分で守った。だから、防衛するくらいは大丈夫なんだ」
「それでも、喧嘩に巻き込まれれば経歴に傷がつくよ。政府官僚になるためには、そういうのはご法度だろう」
この高校に入る大半の人が目指すところ。
高官・官僚になること。
「……それも、僕には関係ないんだ。官僚になれるわけでもないから。僕は……ヤクザの息子だからね。経歴がどんなのでも受け入れられる研究者にでもなれればいいなと思っている」
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