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杉村という男=SIDE H=
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オレの言葉に、杉村は一瞬目を少し見開いてオレを見やり、思わずといった様子でぷっと噴出した。
この話をして、離れていくやつは多かったが笑い出すやつは初めてで、思わずオレのほうが目を瞠って杉村を見返してしまっていた。
「さっきの反応見て普通の首席の優等生じゃねえなって思ったけど、まさかヤクザの息子とは。どおりで、肝据わってるわけだ」
手を叩いて可笑しそうに笑う杉村を、オレは教科書を干しながらまじまじと見つめた。
「悪ぃ悪ィ。長谷川、おもしろいね。風紀委員で首席でよい子チャンの長谷川の、まさかの意外性に笑っちゃった。ゴメンネ」
全く悪いとこれっぽっちも思っていなそうな口調に、何故かオレはほっと胸をなでおろした。
こういう反応をされるとは思わなかったが、とても楽になれる気がした。
「いや。笑ってくれたほうが、楽ですね」
「で、副会長をどうやって怒らせたの?」
根堀り歯堀りというほど、好奇心で満載というわけではないが、自然にこの男はオレの事情を聞きだそうとしてくる。
半分面白がってくれているのが、気楽でいいなとは思う。
本当にコミュ力が高い男である。
「僕の恋人にちょっかいかけてきたから、追っ払っただけですよ」
ため息をつきながら、先ほどの副会長の様子を思い返す。
副会長は絶対オレが報復に屈すると思っているに違いない。
「ちょ、待って。長谷川って、恋人とかいるんだ。何、またもや意外性のリア充?」
杉村は爽やかな表情でおどけて見せながら、濡れたオレの教科書を開いて干すのを手伝ってくれている。
「リア充って言っていいのか分からないですが。男子校で、校内恋愛的な……」
ぱかんと杉村は口を開いて、次の瞬間腹を抱えて大笑いを繰り出す。
「長谷川!!!流石の俺も、そこまで長谷川の意外性を見せ付けられると、もう、あれだね。人を見た目で判断しちゃダメって心から思うよね」
ひいひいいいながら笑う相手に、オレは不思議と悪い気はしなかった。
「まあ、そこは大事ですけどね。人は見た目じゃないってことは、最近僕も思い知ったところですよ」
腹をさすりながら漸く笑いを収めた杉村は、真顔でオレに詰め寄る。
「で、お相手は誰?副会長が狙うほどの人って言ったら、二年の佐々岡さんとか?」
杉村が名前をあげた佐々岡先輩は、サッカー部の副部長でイケメンの爽やかな男である。
まあ、人気も高いらしく、近くの女子高から応援によくやってきているのを知っている。
人の恋愛によくもこう、興味深々になれるなあとある意味感服しつつ、杉村に首を振った。
「いや……そういう感じじゃなくて……」
「え?ボクシング部の松崎さんとか」
どうしてあげてくる男は、イカツイ感じの男ばかりなのだろう。
オレが首を横に振ると、思いつかないというような表情で考え込む。
「うーん、副会長が狙うのっていつも、こー、背が高くてイケメンで、成績優秀な男ばっかだからさ」
「そういうことか……」
背が高くて、イケメンで、最近になって成績をあげたから成春は目をつけられたのだ。
副会長は本当に見た目しか気にしない男なのだなと思う。
「瀬嵐先輩です。僕の大事な人は」
思い切って杉村に告げると、更に目を丸くしてオレの顔を何度も凝視する。
「え……。あの人ヤンキーだよね。この学校唯一の」
「根はとっても真面目な人です。この学校に来てる時点で、真面目なんですけどね」
「まあ、背は高くてイケメンだよな……」
どこか納得したように、うーんと唸る杉村は、オレの顔をちらちらといぶかむように見つめて、まだ納得いかなそうな表情を浮かべる。
「あのひとは可愛い人ですよ。」
「そりゃ、ヤクザのオヤジさんとドヤンキーのアニキがいればそう見えるのかもな。やっばいなあ、長谷川、俺オマエの印象540度変わったわ」
ちらりと教室を眺めて、5時限目の化学の先生が入ってきたのを確認する。
「一回点半?」
「んじゃあ1260度」
もういっちょと増やした杉村の言葉にオレは思わず噴出した。
「トリプルアクセル!!って、フィギュアかよ」
突っ込みを素で入れてしまって、驚いた表情の杉村の顔にぶつかりオレは髪を掻いた。
「長谷川、今の素?そっちの方がいいよ。…さてと、教室戻るか。センセーがこっち見てる。まあ心配してだろうけどね」
「育ちが育ちだから、敬語でも使ってないと、汚い言葉だらけになってしまうんで」
言葉を直そうと試みたオレに、杉村は振り返りふっと口元を緩めて笑う。
「さっきみたいな隙、もっと見せてほしいと思うよ、俺は」
純粋に友達という響きに似たものを感じ取って、オレは拳をきゅっと握りこみ、杉村の背中にようやく言葉を返した。
「そのうち…な」
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