アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
4
-
「やあ、いらっしゃい。外は寒かったでしょう?好きな飲み物を選んで下さいね。」
急に冷え込んだ週末。
赤い頬をした線の細い男の子がやってきた。
名前は財津光太郎(さいつ こうたろう)。
まだ高校生の大人になりきれていない可愛い男の子だ。
「ありがとうございます。」
ココアのボタンを押す姿は、まだまだ子どもで可愛らしい。
雑誌は無難にファッション雑誌と漫画の週刊誌を手にとって席に案内した。
「今日はどんな髪型にされますか?」
卵型の頭の形、さらさらの癖のない髪質。
つむじの位置を確認しながら聞くと悲しそうな目で言われた。
「・・・気分を、変えたいんです。」
俺と、一緒か。
優しく微笑む。
「ガラリと変えたい時があるよね。俺も変えたばっかり。」
そう言うと、おずおずと鏡越しに見つめられた。
「校則でカラーしちゃダメとか、パーマあてたりしちゃダメっていう制限あるのかな?」
一度も染めたことのない綺麗な髪は、とても触り心地が良い。
かぶりをふって否定した彼に、安心させるように微笑む。
「じゃあ、かっこよくなるようにしていこうか。任せてもらっても大丈夫?」
「はい。」
しっかりと頷く素直さが可愛くて頭を撫でた。
するとその子の目に涙が浮かんできてドキリとした。
・・・きっと誰かを思い出したんだ。
「俺ね。」
サク。
サク。
髪に鋏を入れる。
「はい。」
「失恋したんだ。」
言って自分で傷ついた。
思い出すのは、あの純粋な目。
山下さん。
そう甘く呼んでくれた彼は、自分のものにならなかった。
気を緩めると、涙腺まで緩む。
ちょっと思い出しただけで、目が熱くなってくるのがわかった。
「いくつになっても、失恋ってキツイよね。」
笑えているだろうか。
大きな鏡を見ることが出来ない。
お客の彼が小さく震えた。
「・・・タオル、使って。」
ふわふわのタオルを渡すと、そのタオルに顔を埋めている。
「最初、好みだったから手を出しただけだったんだけど。ダメだね、途中から本気になってた。」
サク。
サク。
「・・・君も新しい髪型で、明日から笑えるようになってると良いね。・・・頑張ろ?」
小さく頷く頭を撫でてあげると、肩が一層震えた。
細く頼りない肩を温めるように摩る。
「・・・っう。 」
可哀想に。
切ない片想いだったのだろうか。
それとも誰かとお別れしたのか。
その震える姿が自分のようで、哀れだった。
「大丈夫、きっと忘れられるから。」
涙でぐちゃぐちゃな顔をあげて、肩を摩る俺の手にしがみつかれた。
「・・・ほんと?」
「本当。」
落ち着くまで片手で後ろから頭を抱きしめた。
「・・・本当だから。毎日少しずつ忘れられるよ。」
「うん・・・お兄さんのこと、信じる。」
可愛いことを言うこの子に癒された。
俺の苦しい恋心も、ほんの少し忘れられた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
5 / 872