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恐怖からの幸せ 山下編
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たまにコイツの思考回路が人間離れしているなと思うが、今日は特にそう思った。
「だ、大輔さん。」
「ん?」
購入してから15年。
苦楽を共に過ごした軽自動車を手放す事にした。
大事な光太郎を乗せるのに、やはり軽では車体が柔すぎるという判断からだ。
光太郎の好みを聞きつつ車の選定をしようとメーカーのショールームを廻ってみた。
試運転したあとで、俺の袖を引っ張ってこっそり耳打ちしてきた内容に首を傾げた。
「買い替えるのやめよう?危ないよ。」
不思議だ。
ぽりぽりと首筋を掻いて理由を尋ねてみる。
「あのね、だって、衝突回避の車でしょ?」
「うん。」
「回避ってぶつからないようにするんだよね?」
「だな。」
すぅっと息を吸って、光太郎が意を決したように言った。
「危険だからダメ!」
ああ、分からない。
この子の思考回路が意味不明だ。
根気よく聞くしかない。
「何故、危険、なんだ?」
ギュッと肩を押さえられて、耳打ちされた。
「ゾンビから襲われたら、轢いて逃げなきゃいけないでしょ!回避されて車が停まったらゾンビから襲われちゃうよっっ」
恐怖だ。
コイツの思考回路、恐怖でしかない。
よもや本気でゾンビがいると思ってんのか?
いわゆる中二病ってやつか?
「おまえ、ドラキュラいると思うか?」
「うん!いてもおかしくないよね!」
なるほど。
なんだか段々、可笑しくなってきた。
いやいや、ほんとに。
もしかしたら、コイツにとってゾンビも幽霊も実在すると思ってるから、ホラー映画で異常にビビるのかもしれない。
なら仕方ない。
本気でいると信じているなら、いまここでの契約はやめておこう。
後日、ひとりで契約した車が納車された時、光太郎は嘆きに嘆いた。
「バカ〜ッ!ゾンビに襲われても知らないんだからッ!」
半泣きの光太郎を抱きしめて、ポンッと車の助手席に放り込む。
「ばーか、どんな車に乗ろうとも お前だけは守ってやるよ。」
ほら、真っ赤になって可愛いやつめ。
「シートベルト締めろ、初ドライブ行くぞ!」
「やったー!」
たまに恐怖の走る思考回路だが、俺もイカれてるし ちょうど良い。
やっぱりお前と一緒にいる時間は、最高だよ。
幸せだぞ、このやろう。
「途中、ソフトクリーム食べたい!」
「お前絶対、こぼすだろ?」
「こぼさないもーん。」
まあ、お前なら汚してもいいさ。
今日は絶対、カーセックスするんだからな。
みとけよ。
ちんまりと おさまった恋人を横目に、光太郎のための車を運転するのだった。
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