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卒業式
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不思議だった。
教室に入るのは、今日が最後。
黒板に書かれた「卒業おめでとう」の言葉に、ジンときた。
担任の先生は、いつもとは違う礼服を着ていた。
久しぶりに会うクラスのみんなも、そわそわしている。
体育館へみんなで並んで歩いていく。
同級生が一堂に揃うのは、今日が最後だ。
在校生や保護者、来賓の方々から拍手を受けながら、決められた席へと座っていく。
粛々と進められる卒業式。
ふと見上げると、右側の観客席に大輔さんとお母さん、大吾が見えた。
大輔さんが、ニヤリと笑う。
ふふ、ちゃんと来てくれた。
そして、たくさんいる中から俺を見つけてくれた。
「一同、ご起立ください。国家斉唱。」
もう、歌うことは最後かもしれない。
大人になって、歌うことあるのかな?
そう思ったら、胸が熱くなった。
ほんの少し、大人になる。
ほんの少し、子どものままで。
俺は、大人なのか子どもなのか。
まだまだ経済的にも精神的にも自立出来ない。
専門学校卒業したら、大人になれるだろうか。
保護者席を見上げると、大輔さんが大吾を抱っこして俺を指差している。
ふふ、お兄ちゃんだぞって教えてくれてるんだ。
「ご着席ください。・・・卒業証書、授与。」
クラスの代表者が壇上に上がっていく。
学校生活を思い出して、膝の上に置いた手をギュッと握りしめた。
図書室に、もう行くこともない。
体育祭や、文化祭、楽しかった後夜祭。
大変だった勉強に、ウトウトして先生に叱られた日本史。
あぁ、修学旅行は北海道に行った。
やっぱり楽しかったな。
校長先生の祝辞、来賓祝辞へと進行し、在校生代表送辞で、真由ちゃんが壇上にたった。
「春の暖かい光が差し込む本日、諸先輩方の卒業式が始まりました。私は、この日を迎えることが寂しくてなりませんでした。」
真由ちゃんと図書室で過ごした時間。
勉強しながら、色んな話をした。
真由ちゃんの憧れの人の話。
そして、失恋したこと。
勉強の悩み。
進路が決められないこと。
こうちゃんは、やりたい事決まってるんでしょ?
背中を後押ししてもらった。
同級生とは違うポジション。
でも、お互い友だちだと思っている。
卒業しても、友だちだよね?
「先輩方から教えてもらったことは、忘れません。」
ありがと、真由ちゃん。
俺も、忘れない。
「もう明日から先輩方の姿を見ることができず、寂しさでいっぱいですが、今日の晴れやかな笑顔の先輩方の姿を胸に刻み込み、立派な背中を追って、またわたしたちも歩んで行きたいと思います。卒業生の皆様、並びに保護者の方々、本日はご卒業おめでとうございます。」
真由ちゃん。
真由ちゃん、ありがとう。
立派じゃない背中だけど。
全然頼りない俺だけど、ずっとずっと仲良くしてね。
真由ちゃんと目が合った。
頷きあって、真由ちゃんは壇上から降りた。
「卒業生代表答辞。」
ああ、終わってしまう。
あとは校歌を歌えば、もう卒業だ。
女の子たちが泣き始めた。
分かるよ、俺も泣きたい。
みんなそれぞれの大学へ行く。
それぞれの道へ進み、旅立っていく。
もう、高校生では無くなるんだ。
「卒業生、在校生、起立。校歌斉唱。」
一年生のときに、真っ先に覚えさせられた校歌。
事あるごとに歌わせられたけど、もう、最後の歌。
学べよ、育て
正しく健やかに
ああ、われらの学校
この丘に夢宿り、
心健やかに学びゆく
ああ、われらの学校
「一同、着席。」
ああ、終わった。
涙の滲む目で保護者席を見上げる。
お父さん・・・、来てくれたんだ。
お父さん。
お父さん。
「卒業生、退場。」
在校生が紙吹雪を作ってくれた。
その舞い落ちる中、俺たちは体育館を出て行く。
もう一度、見上げた。
お父さんが手を振ってくれている。
もう、ダメだった。
涙が止まらない。
拳で拭うと、真由ちゃんから笑われた。
「こうちゃん、ハンカチも持ってないの?」
そう言う真由ちゃんも泣いてるくせに。
「ありがと、真由ちゃん。」
教室に戻る。
本当に今日が最後の教室だ。
担任の先生からお祝いの言葉を貰って、みんなで写真を撮った。
「さ、在校生が外で待ってるぞ!未来へ向かって羽ばたいてこい!!」
「「はい!」」
教室にお辞儀をしてみんなで教室を飛び出した。
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