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新しい、いちにち。
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久しぶりに大吾を抱っこする。
忘れていた、この重み。
忘れていた、この温かさ。
「にぃちゃ、にぃちゃ。」
久しぶりに会えて嬉しいのか、そばを離れようとはしなかった。
罪悪感に襲われた。
あの日、家を出た時に約束したのに。
『今度、お外で遊ぼう。』
全然、会いに行ってなかった。
「ごめんね、大吾。」
ギュッと抱きしめると、抱きしめ返された。
「にぃちゃ、すき。」
キュンとした。
甘いお菓子の香りのする体。
弟との約束を守れない幼稚園の先生なんて、ダメだよね。
「次は約束守るからね。」
あの時、泣きながら必死に叫ばれたんだった。
『だいごもいく!!』
『今度な?』
『イヤーッ!!だいごもいく!!だいごもいく!!』
ごめんね、全然会いに行かなくて。
「光太郎さん、元気そうで良かったです。」
「お母さん。・・・おかげさまで。」
「光太郎、ちょっと見ないうちに大きくなったな。」
「そ、うかな?身長伸びたんなら嬉しいかも。」
ぎこちないけれど、会話になった。
「光太郎くんは、今日、入学式だったんです。」
大輔さんが笑顔で会話に入ってきた。
そばに居てくれるから、俺、頑張れる。
「入学、おめでとう。」
「あ、ありがとう。」
大吾が感謝の舞を踊りだした。
ふふ、和む。
「・・・えっと、お金、ありがとうございました。教科書とか、スーツとか、買いました。」
よし、光太郎偉いぞ。
言えたな。
山下は、内心胸を撫で下ろした。
感謝する気持ちが残っていた。
ぎこちないけれど、ちゃんと会話をしている。
「そのスーツかい?」
「はい。」
固い口調だけど、心配だった沈黙にはなってはいない。
「似合ってる。良い見立てだよ。」
そう言われて、光太郎は微笑んだ。
「大輔さんと選びました。」
「山下さん、ありがとうございます。」
「いえ、わたしは付いていっただけですよ。」
付いて行くことの出来なかった父親。
きちんと情報を流さなかった母親。
まだまだ問題がある。
だが、こうやって家族らしい時間を過ごして行けば、少しずつ わだかまりは無くなっていくのではないかと思う。
ひとりで放り込むのは、まだ危険だが、そのうちちゃんと誤解せずに会話を重ねることができるだろう。
光太郎の父親は、もともと人の良いタイプだ。
・・・後ろ暗いところがあるから、態度がおかしくなっただけなのだから。
「食事は採ってきたと聞いていたから、光太郎さんにはデザートを用意したの。」
綺麗な上生菓子。
桜の花びらが ふわりと落ちてきて、光太郎の表情も優しくなった。
「お母さん、ありがとうございます。」
「さ、みんなで食べましょう?」
光太郎の背中を撫でて褒めてあげた。
この子は、いま、頑張っているのだから。
「にぃちゃ、たべる?」
大吾くんが自分の たまごぼうろを差し出した。
「ん、ちょうだい?」
光太郎の口元に小さな手が添えられる。
「おいし?」
「うん、美味しい。ありがとう。」
感謝の舞を踊った大吾くんは、光太郎の膝の上におさまった。
ここでご飯を食べるらしい。
「にぃちゃ、おにぎり。」
「はいはい。」
光太郎からおにぎりを食べさせて貰ってご満悦だ。
自分で持って食べれる年齢のようだが、甘えたくて仕方がないのだろう。
微笑ましい光景。
おだやかな日差し。
ふわりと舞い落ちる桜の花びら。
光太郎から肩の力が抜けて、良い表情をするようになった。
みんなでひとつの弁当を囲み、デザートの上生菓子も頂いて楽しい時間を過ごした。
紙袋から、かるたを取り出す。
大吾くんも参加できるように、昔話かるたを買っていた。
「みんなで、かるたで遊びませんか?」
「ああ、懐かしい。」
目を細めた父親の表情から、きっと光太郎の小さな頃を思い出したのだろう。
俺は、読み上げ役をかってでた。
「つるの 機織り ・・・。」
「どろの舟 たぬきの・・・。」
「織姫と ・・・。」
父親、光太郎 VS 母親、大吾
母親が白熱して、大いに盛り上がった。
「にぃちゃに かった!!」
「悔しい!もう一回!」
母親の表情も柔らかくなった。
ほら、こういう時間が足りなかっただけなんだよ。
だから、いつまでも他人のままだったんだ。
「お母さん、こういうの得意なの。」
「すごい取るの早かったもん。」
「でしょう?」
また、家族で過ごさせなければ。
本当の家族になって欲しい。
だから。
「次は、お父さん、代わってください。わたしが取ります!」
「ええ?!戦力外通告?!」
父親の反応にみんなで爆笑した。
今度は俺も参加して引っ掻き回す。
青空のしたで、何度も何度も笑いが起きていた。
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