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02-09
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今更良い奴になる気もなかった。それこそ偽善者だ。
だからこいつを心配したのは本心からで、「自傷癖を」と言うのは伏せてピアスのことを周りはどう思っているのか聞いてみた。あんなにお兄さんのこと好きそうにしていたのに、その兄がこいつのことで何も言っていないのには違和感があったからだ。
「…兄貴と住み始めたのは去年の終わりからだ」
予想外の返事だった。親が再婚して出来た兄か?と思い質問を変えた。親はどうなんだと。それには「知らねぇ」と返された。知らない。親何か知らない。こいつの言い方からして一緒に住んでいるのは兄1人で、親とは住んでなさそうだった。再婚したとしたら考えられない状況。
「親何て、知らねぇ。兄貴と一緒に住んでる。…それが答えだろ」
親のことを知らないって言っていたのは、誤魔化された感じがしたのだけれど、2度も同じことを言うなら、これは狼城にとって触れて欲しくないものなんだろう。唇をぎゅっと噛み締めて、それはどこか苦しそうだった。
今まで聞いた話から1つの仮説。
それは、狼城の自傷癖がこいつの家族、基親が原因なんじゃあないか、というもの。
これをどう言うんだけ。
―訳有―
つい最近、家族に無理矢理読まされた小説の推し文句がそれだった。「人には言えない何かを抱えていて、その中で苦しみながらも頑張ろうとしてるのが最高に尊い」…だったかなぁ。それにどこか近いものがあって、こいつが築き上げた高い高い壁に気付いてしまったからこれ以上聞くのを止めた。
「……もう良いだろ。ヤるんならヤれよ。もうどうでも良い。愁ともヤってることだし。相手が1人増えたところで変わらねぇよ」
両手を広げて、先まで抵抗していた癖に了承しだす。それは自棄になっているようで自分を"物"のように扱うこいつは、どこか悲しそうだった。それを見たのは今日で2度目。この状況に尊さ何てもの一切感じず、こいつを見ていると心が締め付けられるような感覚がした。
何で、そんな顔するの?何がそんなに嫌だった?――何が、そんなに寂しい?
今日はちょっと悪戯するだけで、元々最後までする気なんてなかった。…ってこれ捕まった奴の言い訳みたい。だけどこいつも、俺がタイを外した時にもうこれ以上のことをしてこないって、薄々でも気づいた筈で。それでも、そこに話を戻した。「もう良いだろ」と、話しを逸らされた。つまり、こいつの中で家族の話題とヤられることを天秤に掛けたら、後者の方がマシだったってこと。それが分かっていて、「据え膳食わぬは~」何て言ってられない。俺には無理だった。
自暴自棄になって自分の体差し出してまで話題を終わらせたかった狼城に、興奮はしなかった。俺が見たいのは恐怖、嫌悪。そう言った"本気"の拒絶になるまでの狼城の反応で、これじゃあなかった。屑が今更って感じだし、いつもならここまで思わないのに。狼城にはどうやっても出来そうになかった。
俺がしてこないって分かったら、狼は屋上から出て行ってしまった。地雷は完全に踏む気はなかったのに、踏んでしまった俺が悪いし多分もうこれであいつとは話せないかもなぁ、と反省してちょっと残念に思っていたのに、「"次"はないと思えよ」って、言ってくれたことが嬉しくもあって。次ちょっかいかけたら殺す宣言されたのに、話すことは許された気がして。
狼に抱く感情を整理するように、当初の目的である煙草を吸って空に紫煙を吐き出す。漂って消えていくそれを見ていると、少しずつごちゃごちゃしていた頭の中は片付けられていった。
「…嗚呼、糞…、マジかよ…」
そして見つけたあるものに、自分自身驚いてしまった。狼城と話したのは少しだけ。あいつのことなんて知らないことばっかりで。それなのに何故か自分の中で"守ってやりたい"って気持ちが芽生えていことに気付いたのだ。それは、普段の俺なら思わない筈の感情でもあった。
守ってやりたい…なんて。そんなの好意を抱いた奴にしか抱かないものだろうに。てことは俺、絶対ねぇなって思ってた年齢的に守備範囲外の奴を気に入ったってこと?
否確かに反応可愛くて、俺の嗜好を見事なまでに撃ち抜いて行く奴で。最恐って言われてるのに兄には甘えてそうなあのギャップも結構可愛い。それから守りたくもあって。これだけあったらそうだと認めざるを得ないんだけど、何でだろう。"認めたくない"自分がいた。だって、今までに自分になかったり、滅多に抱いてこなかった感情をあいつには覚えてしまった時点で『お気に入り』って言葉で片付けれないような気がして。
それでもう一度あいつのことを思い返してみた。
マリモみたいな髪して顔なんてろくに見えやしない。でも反応は可愛い。そんでちょっかいかけて色んな顔を、態度を見たいと思った。それで今日、素を出してそうした訳だけどそれは、あいつらが恋人じゃあないと、セフレに近いと分かって衝動を抑えきれなくなったから。恋人なんだろうなぁってちょっと遠慮しようとしていた癖に、そうだと分かった途端に"嗚呼"だった。こんなに気分が昂って、自分を抑えきれなくなることなんて、今まで一度たりともなかった。寧ろ、昂らせるためにやっていたって言う順序逆だったまでもあるし。でも、狼城は俺の"今まで"に当てはまらない。しかも俺は、あいつの目を見た時から惹かれていたまでもあって。
流石に、ここまで来たら『お気に入り』以上の感情に気付かざるも、認めざるを得なかった。たった2日で気付いてしまった、それ。その事実に頭を抱えてしまった。
「うわ…、まじかぁ…」
どうやら俺は、守備範囲外の餓鬼に一目惚れ、していたらしい。
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