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03-01
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次の日、愁の姿は朝からなかった。サボりかとも思ったけど、サボりで来ないなら俺に連絡してくれる。だけど、電話はおろかメールすら来ていない。
それは『伝えられる程今余裕がない』って言い換えることも出来て、その理由として考えられるのは2つだった。
1つ目は寝坊。けど、寝坊って言っても昼まで寝る様なレベルなら「あ、俺明日行かねぇかも~」とか、事前に宣言するような奴だから9時になっても連絡がこないってことは可能性が薄い?
てことは、"2つ目"に消去法でなる。
愁は毎月必ず1回は俺に連絡を入れないで、学校を休む。それが2回の時もあるが、基本その周期は1ヶ月だった。中学の頃から愁とは付き合っていたら、1ヶ月単位で起こっていることなんて単純計算でも最低36回は俺は見てきた訳で。
いつもなら「俺休むけどルウちゃんは~?」だとか「俺とゲーセンでサボらね~?」とか言って報告基「一緒にサボろうぜ」と誘ってくるような奴が、だ。そんな休み方をするパターンはいつも決まっていたし、今回の理由も想像がついた。
簡単に言ってしまえば家庭内の事情。どう言った内容なのかは知っている。それが愁にとって『落とすだけじゃあ気が済まない』位な事だってこと。あいつは気に入らないことがあると周りが見えなくなる質だから、日常的にしていた行動を忘れる位に余裕が無いってことはそれで説明出来た。
あいつの家庭は俺と同じで色々とフクザツで、あまり触れて欲しくないのは俺が一番良く分かっている。だから"それ"絡みの休みだと分かったら無理に愁に連絡を入れようとはしない。代わりに、放課後に愁の家を訪ねる。きっと愁は荒れて手が付けられない状態になっているから。俺が愁に出来ること、俺の"役割"は、俺がいつもしてもらうように愁を落ち着かせることだから。
「魔咲は居ない…と。連絡来てないんですけど、狼城君何か聞いていますか?」
S.H.R.で出席確認が行われる。俺の隣にいないそいつを見て、椿にそう問われた。俺に聞いたのは、愁が連絡を取りそうなのが俺しか思いつかなかったからなんだろうが。
まぁ、勿論。聞かれたから教えようなんて思わないが。「家で色々あって」?俺も、あいつも自分の深い所まで詮索されんのは嫌いだ。自分のテリトリーに他人を入れたくない。それなのに、それを分っていて話す奴なんている訳が無い。詮索されなくてもサボりって思われるかもしれない。じゃあ、病気って言う?どうせ連絡が来てないんだからそれこそサボりだろうと決めつける。
どうせ俺等自身に聞いたって向こうからの評価は俺等を無視していて、それなのにこいつが俺に聞いてきた意味が分からなかった。どうせサボりだろって思っている癖に。言ったって何かが変わる訳でもねぇのに。それなら聞かなくても良いじゃないか。居ないと分かればそこで終わらせとけば良いんだ。
「……さァな」
「…そうですか、分かりました」
俺が曖昧に返せば椿はそれ以上首を突っ込んで来ず出席簿にペンを走らせる。あっさりと引き下がったってことは、そう大して愁が休んだ理由に興味はないってこと。こいつがあの屑な頭の中で何考えているのかは知らないけど、どうでも良いなら踏み込んでくる素振りを見せないで欲しかった。否、かと言ってそうじゃなければ踏み込んで良いと言っている訳でもないけど。そっちもそっちで迷惑だけど。
椿は出席簿に記入し終わると、入室した時に持ってきて机の上に積んでいたプリントを配り始めた。
前の奴が俺にビビりながらそれを渡してくる。別にプリント渡された位で怒ったりしねぇのに。そうした理由を作ったのは俺等かもしれないけど、勝手に勘違いして、勝手にビビって。そっちの方が逆に苛つくって分かんねぇのかな。
「えーっと…来週中に親御さんに書いて来てもらってください。出してもらわないと色々と困るので……」
プリントなんて見る気はなくて即行で机に突っ込んだんだけど、親宛ってことは兄貴に書いてもらわないといけない…んだよな。だから仕方なくもう一度机の上に出して、内容を確認した。プリントの題は『授業参観と保護者会のお知らせ』。
―下らない―
高校になってまであるのかと内心で突っ込む。学校の雰囲気を親にも知ってもらう為なんだけど、授業風景を今更見てもなぁ?やる意味を見出せない。兄貴に見せる必要ねぇかも?でも念を押すってことは見せなかったらぐちぐち言われんのかな。
「ちゃんと忘れずに、親御さんに書いてきてもらってくださいね」
また、釘を刺した。それ程こいつ――教師にとってはこんな薄っぺらいものでも大事な書類らしい。そりゃあ親絡みなんだからそうなんだろうけど。
プリントにも、椿の言葉にも。先から出て来るのは『親』ばっかりで。それを意識してしまうと胸の奥がムカムカして、無意識にクシャ、とプリントを握り潰していた。
こう言う行事に良い記憶なんて全くなかった。
幼い頃、仕事で帰りの遅い親が目を通せるよう、分かりやすい場所に便りは置いていた。参加、不参加を問われる奴もそこに一緒に。幼い時は、参加してくれることを願っていたこともあったけど、いつもいつも朝起きてみると不参加に丸され、切り取り線で機械みたいに歪みがない綺麗に切り取られた紙切れがあって。
俺はそれに対して親に「行けない」だとか「ごめん」すらも言われたことがない。仕事が忙しいのは分かっている。家で俺と会える時間が合いにくいってことも。けれど、何も言われないのは行かないのが当然みたいに言われているようで、結局一度も学校行事に家族が足を運んでくれたことはなかった。
一言位何か言って欲しかった。置き手紙でも、時間が合った時に言ってくれても良かったのに。それすらもされなくて、多分俺は"彼等"に、興味を持たれていなかったんだと思う。
それを思い出してしまうと、どんどん胸の苦しみは大きくなっていって。同時に体が寒さを訴えてきた。
「ちょ…っと狼城君。まだ話は――」
「…っせぇな」
耳を塞いだって、目を閉じたって。逃げたくてもその言葉はここに居たら付いて来た。それに耐えきれなくなって椿が話している途中で教室から出ていく。愁は居ないのに、鍵なんて開いていないのに、俺の足は屋上の方へ動いていた。
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