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氏原side‥₃
離れていく手の温もりを惜しむように
自分の頭にそっと手を置いた。
…やっぱり癖毛は変わらずだけど、これの方が
僕らしいって言われたのを思い出すと、これもこれで
いいんじゃないかななんて思うから単純な脳みそだなあと
呆れてしまう。
すると不意に顎を持ち上げられ、先程来ると思って待ち望んだ柔らかいものが僕の唇に押し当てられた。
触れるだけの、一瞬のキス
「お前ってたまにそういう可愛い事するよな。
……そういうの、他の奴にあんまり見せんなよ?」
そう言うと康明はさっさと歩いて出口へ向かう。
今…一瞬だったけど康明少し、赤くなってた…?
今までに見たことの無いような照れ笑い。
気のせいなんかじゃ、なかった……と思う
慌てて席を立って追い掛けようとすると、扉に手をかけた康明がちらっとこちらを振り返った
その表情は、いつもの意地悪な笑みに戻ってしまっていたけれど。
「…あのタッパー家で洗っとくからあとで取りに来いよ。
明日も作ってもらわなきゃいけねーし。」
それは、つまり
今日も仕事が終わったあと、康明の家に行けるという事
顔が赤くなるのも、思わずはしたなくニヤけてしまうの必死にこらえて、満面の笑みで頷いた。
満足そうにフッと笑う康明に小さく手を振り
扉の向こう側に消えていく後ろ姿を眺めた。
扉がパタンと音を立てて閉まると、その向こう側から
何やら話し声が聞こえる
あまり、しっかり聞き取る事はできなかったけど
声の主は康明と………
時計に目をやり、”予感”は”確信”に変わる
始業式、僕の隣に居られるなら参加すると
我儘を言い続けたあの生徒。
もう音を覚えてしまったノック音
1回目より2回目の方がやや小さい音で、その間隔は
少しゆっくり目。そんな、僕の苦手な音を立てて
その子は僕の名を呼ぶ
「氏原せんせー。おはよう!入るね?」
さっきとは違う理由で早まる鼓動
扉を開けた人物は、酷くつまらなそうな顔をして
真っ直ぐにこちらを向く冷たい瞳が僕を凍りつかせた。
「朝から別の人が居るなんて珍しいね?」
「保健室なんだから、人が来るのは何も珍しくも無いよ。おはよう……トモナリ君。」
雑にスクールバッグを投げた彼は
ずんずんと僕の目の前まで歩いてきた。
「っいった……力強いから…っ」
恐ろしいほどの力で僕の腕を掴むとトモナリ君は
真っ黒な瞳を僕に向けた
「ほら、行こうよ。もうすぐ式が始まるよ?
氏原先生が隣にいてくれるんでしょ?早く行こう」
グイグイと引っ張られれば僕の力では彼を制することは
出来なくて、仕方なくされるがままに体育館へ足を進めた。
前を歩きながらトモナリ君がどんな顔をしていたのか
僕にはわからなくて、それがすごく怖くて。
数分前に康明に向けていた暖かな笑顔は既にどこかへ消え去っていた。
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