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どんなに強く思っても、過去はどうにも変わることがなくて
先輩を壊してしまったその代償に、あれから俺は恋愛を拒むようになった。
”あの日から、時間が止まっているのは
高木くんだけよ。”
…なんだよ、それ…。ナル先生は一体何者なんだよ…。
俺のこと、先輩のこと…まるで全てを知っているかのように……それに、幸人の事だって…。
わかんねーよ。何もかも、わかんねえ…
1本、もう1本と、手にしたタバコは数知れず
落ち着け、と自分に言い聞かせては煙を吐き出し、また吸い込む。
いつの間にか空になった箱をクシャリと握れば、6限の終了を知らせるチャイムが鳴った。
…もう、そんな時間かよ。
時計を見れば、ナル先生が出て行ってから30分が経過していた。
ナル先生の言葉1つにここまで考え込む女々しい自分に呆れつつ、重い腰をようやく上げたその時、勢い良く喫煙所の扉が開け放たれた。
「やーーっと見つけた!高木っち!もー、途中で居なくなるの辞めてくんない?ほら、戻ろ!」
途端、煙たい空間に広がるむせ返る程の甘い匂いに
グラリと視界が揺れた。
「っつかタバコくさっ!!身体に悪いんだけど!」
「…おめーのが臭えよ。そのキッツい香水あんまり
振りたくんな、気持ち悪くなる…」
「えー…わかったよ、もうコレはつけない!
…っ、とりま行こうよ!みんな心配してるって!」
強引に腕を引っ張るこのアホみたいに明るい女には
どうせ大した悩みなんて無いんだろうよ。
「いーよなぁ、渡辺は。…悩みとかなさそう。」
ふっと、思った事を口にしただけだった。
特に深い理由なんて無かった。
「え?……ははっ。そんな風に見える?」
こちらを向く渡辺は、なぜだか弱々しく笑うと
いつもは見せたこともないような、難しげな面持ちで何も言わなくなった。
「なんだよ?…ちげーのか。」
「んー。…悩みの無い人なんていないっしょ?
周りから見ればほんの小さなことだとしても、
本人からしたら大きな悩みってことも……あるのかもしれないしさ。」
珍しくまともなことを言った渡辺に驚いた。
アホみたいにゲラゲラ笑ってる、いつも輪の中心にいるこの渡辺にも
きっと人には言えない悩みがあるのだ。
そう思うと、自分の無神経な発言が彼女を傷つけたのではないかと、
少しばかり不安になった。
「なぁ…。渡辺、まあさ、悩みとかあるなら聞くから。
教師として。」
引かれる腕に力を入れて、渡辺をその場に静止させる。
振り返った渡辺は、少し顔を赤らめて俯いた。
「……教師として…かぁ。…そうだね、ありがとっ!」
自分の中で最善の言葉をかけてやったつもりだったが
渡辺はなおも複雑そうな表情をしたままだった。
ガキの考えはわかんねぇ。
力の抜けた渡辺の手から自分の腕を引き抜いて、くしゃりと金色の髪を撫でまわす。
「ちょっ…崩れるじゃんバカ!!」
「お前だけには言われたくねえよ。言っとくけどテスト結構悲惨だったぞ…。補習は覚悟しとけ。」
「えええぇ高木っち勘弁~~!」
先を歩きだした俺を小走りで追いかける彼女は先ほどまでの複雑そうな表情とは裏腹に、なんとも楽しそうな表情へと変わっていた。
別にこんな濃い化粧で繕わなくたって、そのキラキラ光る笑顔に勝るものなんてないのに。
「なあ、やっぱお前化粧濃いんだよ。元から整ってんだからわざわざ背伸びすんな。」
「………は、はぁ…?だ、誰のために…やってると……」
「あぁ?何?聞こえねえ。」
「なんでもなーいー!!」
この喫煙所から教室までの道のりで、一人で百面相してる渡辺は、やっぱりよくわかんねえ。
わかんねえし、基本うるせえし。
でも恋愛感情とかではないけど
可愛くて、大切な、俺の生徒だ。
お前のお陰で気持ちが少し楽になったよ。
ありがとな
絶対口には出してやらないけど
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