アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
134
-
氏原side‥₂
「それ高木先生の?」
僕の声を聞き、バッと勢い良く振り返った渡辺さん。
ナチュラルメイクにはやっぱり少し違和感を覚えるけど
作り込まれていないぶん前よりも表情を読み取りやすくなった。
渡辺さんは、案外単純な子だから
嬉しい時は眩しいほど瞳をキラキラさせるし
悲しい時は本当に辛そうな顔をする。
だから、今渡辺さんが
どんな心情でいるのかも――。
「あ…氏原ちゃん……目、覚めた?だい…じょうぶ…?」
「…うん、もう平気だけど―――」
「…よか……たっ……もぉ〜〜〜〜っ」
途端、瞳から溢れだす大粒の涙には流石に驚いて、
ソファに腰掛ける渡辺さんの元へ走り寄る。
まだ身体は重いし、少し目眩もするけど
我慢できない程じゃない。
黒く艶めく髪を優しく梳くと、嗚咽を漏らしながらも
僕に身体を預けてくれた。
「っうっ、もぅ……氏原ちゃん、死んじゃう、かと…っ」
荒れた呼吸をただすように、トントンとリズムよく
背中を撫でて渡辺さんが落ち着くのを待った。
こんな、ちょっと倒れただけで
簡単に死ぬわけないのに。
渡辺さんは落ちていくメイクを気にも止めず
生きていてよかった、怖かったと何度も呟いた
「…もぅ。本当調子狂うなあ…っ」
無駄にいい子過ぎなんだよ、ばか。
見た目こそ派手だったから、周りにはそれなりに遊んでいるだろうとか思われているみたいだけど
本当の彼女はそんな事一切無くて
ただ、素直で、時々気を遣いすぎるけど
裁縫や料理も出来る、努力家の優しい女の子なんだ。
こんな風に、対抗するような大人気無い態度を取ったり
以前彼女のバイト先に行った時の、手のひらを返すような言動をした、僕に対してさえ
心配して助けてくれて
僕の為にボロボロ泣いて。
「…………そんな、泣かない…っ、でよ…。ばか。」
随分、涙腺が緩くなった。
生理的に溢れるそれを除けば
あの日を境に、枯れ果てたと思っていた涙が
康明や、渡辺さんの手によって
再び取り戻されて行く。
”生きる事から、逃げないでくれてありがとう。”
いつか、僕の傷を見た康明が言ってくれた言葉
そして、”生きててくれてよかった…”
そう囈言のように言い続けた渡辺さん
どうやら僕は、この手の言葉に弱いらしい。
「…?氏原ちゃん……も、泣いてるの…?」
「…はぁ。………見ないでよ…カッコ悪いじゃん…。」
この場所に、他に誰もいなくてよかった。
お互いの止まらない涙を2人で拭い合いながら
それが何だかおかしくて
どちらともなく笑ってしまった
目がパンダみたいだったけど
渡辺さんの笑顔は
保健室によく遊びに来てくれていた頃の
あの眩しい笑顔で、それが凄く嬉しかった
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
135 / 448