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氏原side‥
(氏原×渡辺)
勢い良く鳴り響いたピストルに、一斉に走り出した第一走のメンバー。
生徒指導の先生は最後まで粘ったけどどうにもこの種目から逃れる事は出来なかったらしく、しぶしぶお題の入ったボックスに手を伸ばした。
その途端、暴れ喚いたと思ったらまさかのうさぎ跳び。
「おーっと教師チーム最初のお題は『ピアス返せメガネ。(嫌ならうさぎ跳びでトラック一周)』だ〜!」
面白おかしい実況者気取りのアナウンスが流れ、
グラウンドは笑いに包まれた。
うん、これは…
明らかに私怨だ。
それでもピアスを取りに走らないこの教師はきっと
すごく真面目で良い人なんだと思う。
でもさ、メガネ先生。
僕勝ちたいからピアス今日くらい返してあげてほしかったかな。
そのうち、比較的簡単なお題を出された走者がバトンを繋ぎ始める。
僕は少しの差で心ちゃんに先を越されながらも、
慌てて受け取ったバトンを持ってくじ引き場へ向かった。
第二走のスタート位置に残っているあの生徒は
多分応援席で誰か付き合ってくれ〜!って叫んでる男子生徒と同じチームだろう。
…可哀想に。
くじを引こうとすると、隣で僕を凝視してる人物が一人。
「……心ちゃん?どしたの。」
「いや、とりま早く引いちゃって。」
その手は僕のジャージの裾をしっかり掴んで
僕を離さまいとしていて、首を傾げつつも箱の中に手を伸ばした。
「…っぎゃ!!」
箱の中で突然掴まれた手。
反射的に抜こうとしても謎の馬鹿力で押さえられ、かなわない。
おもむろに紙切れを握らされるとグイグイと押し返されて箱から手が抜けた。
………………やらせにも程がある…。
すると、まともに内容も見られないまま心ちゃんが僕の腕を引っ張った。
「よっし!じゃあしっかり着いてきてよねっ」
足が縺れて転けそうになりながら心ちゃんに引っ張られてもう意味がわからない。
しかもこの2人だ。
全力で走ってはいるものの周りから見たら駆け足レベルのそれ。
「ちょ、ちょっと何…っ?!いきなり…はぁ…っ」
「こ、これ…!これ見て…みなさ、いよ…!!」
息を切らしながら必死になって心ちゃんの持つ紙を突き付けられる。
その内容は―――。
「第二走1年3組のお題は『親友』だー!!同じく第二走の氏原先生を引き連れ走る!全力で…?は、走る〜!」
おいこら実況者。僕達は全力なんだよ”?”を付けるな。
でも今はそんな事はどうでもよかった。
心ちゃんに連れられて走る理由
心ちゃんが僕を連れて走っている理由
『親友』という単語を耳から、目から共に捉え、それが
事実なのだと知る。
「…っへへ、もぅ……っ、しょ、がないんだから…っ!」
走っていなければ、ここでは余裕綽々の康明ばりの意地悪な笑みを浮かべてやった事だろう。
でも今、そんな余裕はなくて
走っているのに疲れているのに
息もまともに出来ないくらい全力なのに
溢れ出るのは笑顔ばかりで
「もうっ!わかったっしょ?!…う、ウチも勝ちたいんだ、から…っ、黙って…着いてきて!」
まったく。
意地っ張りで自分勝手な僕の親友は
僕だってやらなきゃいけない事があるっていうのに困っちゃう。
…でも、嫌な気分じゃなかった。
「…早く、高木先生に、バトン…、つなごっ」
「うんっ」
そこでふと思い出し、ポケットに突っ込んだ自分の紙切れを取り出す。
お題は『ライバル』。
「ここで1年3組は最後の走者 高木先生にバトンを繋ぐ!
……と思いきや教師チーム氏原先生も最終走者にバトンを繋ぎました!!差を広げられたかと思った教師チーム!
お題は『ライバル』でしたがこれは一体どういう事でしょう!!」
バトンを繋いでどちらともなく崩れ落ちて笑い合った僕ら。
この意味を知るのは僕達だけ。
2人だけの秘密なんて、本当に親友みたいで
こんなに声を上げて笑うのはなんだか久しぶりで
暫くその場で心ちゃんから受け取ったバトンを持って
走る康明の姿を見ていた。
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