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セーラー服を押し付けて、中庭の窓から
保健室に消えて行く幸人を眺める。
元から身体も細くて身長もそんなに高いわけでは無くて
なかなか女の子らしくなるんじゃないかと期待してしまう。
でもそんな時、着替えを終えて出て来たのは
先輩だった。
あれから顔も見ていないし声も聞いていない
それでも忘れた事なんて一度も無い
目の前の人は
幸音先輩そのものだった。
体が強ばり、その場から動けなくなる。
「お〜!氏原先生が大変身!空を飛ぶ事を諦めた高木先生のもう1つのお題は――」
とおくでアナウンスが聞こえる。
けれどそんなものどうでもよかった。
俺は、先輩に。
眼の前の、先輩に伝えたい事は山ほどあって――。
右の頬に、何か温かいものが伝った。
でも、それが涙なのだとわかる前に、目の前の先輩は
女とは思えぬ力で俺の胸ぐらを掴んだ。
「…僕にこんな格好させて何フリーズしてんの。
早く行くよ。」
強い衝撃に、何処か怒りを帯びた低い声、先輩より少し掠れていて早口な口調
あぁ、なんだ。何考えてんだ、俺は。
ここに居るのが先輩な訳ねーじゃん。
俺は幸人に連れられてゴールテープを切ったそうだ。
周りの歓声に包まれて、1位として。
その瞬間は、よく覚えていないけど
気付けば幸人がさっきまで着ていたジャージ姿で
俺を見ていた。
俺は幸人の頭に手を置いてにっこりと微笑む。
「ありがとう。」
一瞬、本当に幸人が先輩に見えた。
先輩に会わせてくれてありがとう
夢みたいだ。
先輩、先輩、先輩。
先輩―――。
いつもなら、幸人が擦り寄ってくる筈なのに
優しく撫でている筈なのに
幸人はピクリとも表情を変えなかった。
だが、俺はそれにも気付かない。
少しずつ、目には見えない何かが
確実に壊れて行く音が
2人の中で重なった。
俺達の初めての体育祭は、こうして幕を閉じた。
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