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氏原side‥₁
家に帰るとすぐ、昼に食べ損ねた康明と僕2人分の弁当を
全てゴミ箱に落とした。
ボトボトと無機質な音を立て、薄闇の中に消えて行く
ゴミと化した食べ物達をしばらく眺めた後にぶっきらぼうにその蓋を被せた。
”疲れたから今日は休ませて。”
それだけメッセージを送って、そのままスマホの電源を
切ったから、康明から返事が来ていたとしても、それを
確認する手段は今の僕には存在しない。
ソファー目掛けて投げたはずのスマホは、
跳ね返って床に落ち、痛々しい音を響かせる。
通勤用のバッグを放り投げると、チャックを閉じていなかったそこからバサバサと書類や私物が飛び出した。
けれどそんな物を片す気力なんてとっくに失われている。
あの後、ジャージに着替える前に鏡に自分の姿を映した時
思わず乾いた笑いを溢した。
まるで幸音だった。
同時に今までずっと、認めたく無かった幸音と康明の真実を
突き付けられているようで。
確かに”幸音先輩”という言葉を放った康明は
僕を見ている筈なのに、目が合わない
どこか遠くを見ているような不思議な感覚で、僕を置き去りにして、笑った。
僕はそれが怖くて、身体が硬直したように
表情の1つも動かす事が出来なくて
少し向こうにナルを見つけてそちらに視線を向けると
ナルと目が合った。
けど、何も言わず通り過ぎて行くナルにすら
声を掛けることができなかった。
ナルの事は昔からよく知っていた。
だからこの学校に来たときから、おかしいことには気付いてた。
いくら康明が新任だったからと言っても、他にも康明と共に入ってきた新任の教師は数人いた。
どんな人間も特別扱いしないナルが
康明ばかりを構う理由…。
はじめは康明の事が好きなんじゃないかって
そんな事を思った時もあったけど
もし、ナルがすべてを知っているとしたら――…?
そこまで考えて、ガシガシと頭を掻くと
フローリングに砂が落ちる微かな音がした。
そうだ、今日は殆ど一日砂埃の巻き上がるグラウンドに
いたんだと気付き、それすらも面倒になる前に僕は浴室に向かった。
ねぇ、康明。
康明が”やすくん”なの?
僕の胸に、消えない傷を残した犯人?
康明、康明…。
わからないよ。
康明に今すぐにでも聞きたいのに、会いたいのに
どうしても、真実を知る勇気が出ない。
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