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ひとつひとつ。
その言葉一言一言を今でも鮮明に思い出せる。
沢山俺を呼んでくれた綺麗な声は
今ではもう
随分遠くて。
-*- -*- -*- -*- -*- -*- -*- -*--*- -*- -*- -*- -*-
「せんぱーい!夏の大会の曲決まった!やべえよ!
俺ソロ吹いちゃう!」
「ウソぉ!やったじゃない!やす君今まで頑張ってきたもんね〜っ!!」
それはまだ寒い、薄く雪の広がる季節だった。
寒さに鼻先を真っ赤にしながら手を取り合って飛び跳ねた。
「いやー、これはマジで先輩のおかげだわ。
俺頑張る。」
「私も全力でサポートする!」
「おー、それ一番うれしいやつ!」
そんな会話をしながらも、スマホを手に興奮したように俺を見る先輩。
画面を見れば動画閲覧サイトを開いていた。
「えっとねー、確かトゥーランドットって曲。」
「きゃあああ!”誰も寝てはならぬ”?やす君が吹くの?!」
「え、あの待って何の話だそれ。」
極度の音楽オタクの先輩は、俺が演奏する曲なのに俺の知識をはるかに超えていた。
そういうところがやっぱ先輩らしくて、鼻歌を歌ってる先輩を見て自然と頬が緩む。
「泣かせる音を出すにはね、物語の主人公になること。
トゥーランドット姫は氷みたいな心が王子様によってゆっくりと融かされて、最後は愛し合える。
そんな素敵な話なの。
もちろんその間にいろんなことが起こるんだけど、それは置いておくとして
だからね、感情。感情なのよ、場合によっては強弱記号も無視する勢いで…
こう、何?愛しい気持ちを…抑えきれなくなってね…
この一曲を通して人を愛する気持ちを知っていく……んんんんめっちゃ素敵な曲じゃない!顧問の先生ナイス!」
うん、とにかく先輩が大興奮してることはわかった。
にしても物語まで知ってるとか強すぎんだろ。
俺が初めて聞いたときなんかこの曲何年か前にフィギュアスケートの選手が踊ってなかったっけってそんなもんだ。
「これが一般人とオタクの違い…。」
「何か言った?」
「や、なんもねっす。」
「とりあえずスタジオ!スタジオ行かなきゃ!
早く聞かせてよソロ~!」
「は?!俺昨日楽譜貰ったばっかだし何一つ手つけてないって…」
「大丈夫!音楽に間違いなんてないわ!」
「意味わかんねえって!もー…少しだけだぞ。」
音楽の話になると面白いくらい目をキラキラさせて
いや、俺たちの間にはほとんど音楽の話しか飛び交っていなかった。
けれどそんなあなたを見ていて、元気をもらうだとか、笑顔になるだとか、それだけだった筈なのに
いつの間にか湧き上がっていた胸が締め付けられる苦しさや
楽器を吹いてるわけでもないのに赤くなる顔は
あなたに何と言って説明しよう。
この一曲を通して愛する気持ちを知っていく
まさにそれだった。
この時は思いもしなかったけれど
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