アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
158
-
「………貴方が私を好きにならなければよかったのに。」
「…へ?先輩なにいってんの?よくわかんねーって…
…先輩………?ごめん、俺が悪かった…
ちゃんとするから…
なぁ、先輩のこと守るから…行かないで、先輩…?」
何を謝ればいいのか
何を間違えたのか
そして何が先輩を追い詰めたのか
せめて、サヨナラの前にそれだけでも聞かせて欲しかった
訳も分からず、謝る俺と
貼り付けられた微笑みを崩さぬまま席を立つ先輩
最後に見た先輩は随分と痩せていて、髪にも艶は無く、
とても大学生とは思えない風貌だった。
それにすら気付いてやれなかった俺は、先輩の言うとおり
自分中心で、自分の事でいっぱいいっぱいだったのかもしれない。
囈言のように、先輩を呼び続けた俺の声は
多分先輩には届いていないだろうなとわかる。
先輩はいつも笑顔だった。
最初から最後まで。
俺は気付けなかった。
先輩の身に何かが起こってたってことに。
だから先輩は笑ってなくちゃいけなかった
気付かないままずっと苦しめていた。
俺が先輩を好きになった事すら拒否された
唐突な別れに、怒りなんて忘れてた。
込み上げるものすら無かった。
俺には、先輩が全てだったから
先輩が褒めてくれないなら何もしない
先輩がこの先俺に笑顔を見せることが無いのなら
顔を見せてくれることが無いのなら
俺にはもう、音楽という趣味もサックスという特技も何もいらない。何も残らない
暫くして、風の噂で先輩が大学を辞めた事を知った。
何か家族絡みの事件を起こして死んだとか
遠くに引っ越したとか、それはもう色々な噂を聞いた
でも俺は何も知らずに、知らないふりをして
いつまでもいつまでも何も考えられなくなるまで
連れと明け方までバカみたいに騒いだ。
見境無く付き合ったり一夜限りの関係を持ったりしていた中で、適当に付き合った女が教育大学の教授で、コネを回してもらって進学した。
相変わらず女遊びは続けた。
でも、そこには暇潰し以上の理由は何一つ無かった。
先輩を超える奴なんて居なかった
忘れさせてくれる程のやつは存在しなかった。
あんなふうに、振り回して振り回されて楽しくて幸せで
悲しくて辛くて苦しくて…なんて意味が分からないほど心を掻き回してくるような人、この先もずっと居るはずないと思っていた。
自分の中から、人を壊してしまう迷惑な感情はもう
消え去っていた筈だった。
いや、消し去らねばならなかった。
なのに。
「…っな、馬鹿なガキだっただろ?俺。
……先輩が本当に死んだのかすらわからねー。
人一人殺したような俺が人を好きになんて
……もう、なっちゃいけなかったんだよ。」
”なっちゃいけなかった”
どうしても過去形になってしまうのは
目の前の君に出会ってしまったからで。
俺の話を聞きながら、俺よりも苦しそうな顔をする
君に出会って俺の世界は色を取り戻した。
だから
俺だけの君であって欲しい。
なんて無くても良い独占欲は封じ込めて消してしまおう。
君を同じ闇には落としたくないんだ
「…大変だったね。きっと話すのも……苦しかったよね。」
あぁ、君はどうして
俺の顔を見てくれないんだろう
「…康明は、間違ってないよ。
一途で、頑張り屋さんで、素敵だと思うよ。」
そんなに失望させただろうか。
そうだよな
当たり前だ。
自分中心で、臆病で、最低で、あんなに大切に思っていた強くて優しいあの人を壊すほどに苦しめた俺なんて――
「…聞いて康明。……幸音は…生きてるよ。」
「………え…?」
幸人の冷たい手が、爪の跡が付くほど強く握っていた拳の上にそっと置かれた。
力強い彼の瞳は俺を完全にとらえて離さず
まるでここだけ時が止まったかのように
息の仕方すら忘れた俺に
その言葉は、重くのしかかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
159 / 448