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氏原side‥
康明は、時折言葉を詰まらせ、
耐えるように震えながらも話してくれた。
どんなに辛い記憶でも、康明は一度も、一言も幸音を悪く言うようなことはしなかった。
それは、康明がどれほど幸音の事を大切に想っていたかを教えてくれるようで。
「…大変だったね。きっと話すのも……苦しかったよね。」
ここに座っているのは、
すべてを自分のせいにして、
新たな幸せを求めることも出来ず、
時を止めたまま後悔に縛られ、
苦しみ抜いて生きてきた、妹の元恋人。
幸音をわざと苦しめた訳じゃなかった。
それを知れただけで兄としての僕には十分だったけど
ひとつ、またひとつと心の奥底に封じていた記憶を思い起こすことに、一体どれだけの勇気が必要だったろう。
死んでしまったかもしれない、自分が恋人を殺してしまったかもしれないと
泣くことも誰かに助けを求めることも出来ないままこの7年間を過ごしてきた康明に
友人として、彼を愛する一人の人間として僕が言える事は、一体なんだろう。
「…康明は、間違ってないよ。
一途で、頑張り屋さんで、素敵だと思うよ。」
しっかりと、目を見て
教えてあげなければいけない事は。
「…聞いて康明。……幸音は…生きてるよ。」
せめて、ほんの少しだけでも
君に呪縛のように張り付いていた不安を、消し去ってあげる。
強く握られた拳の上に自分の手を置く。
小さく震える彼の手を、優しく包み込む。
康明は、僕の言葉に目を見開いた。
潤んだ、揺れる瞳で、僕を見つめる姿は、酷く弱々しく、今にも消えてしまうんじゃないかと思う程に儚く悲しげだった。
「幸人…おまえ先輩の事知って――」
「同級生だから。」
僕は康明の言葉を遮るように、喰い気味で返す。
”嘘”ではないことを。
「だから少なからず関わりはあったよ。
大学を辞めたのも知ってるし、今はずっと入院してることも…知ってる。」
なるべく嘘にならないようにと必死に言葉を選び、
僕の今持っている情報を可能な限りあげ渡す。
もちろん、だからといって全てを正直に話せるわけでもない。
「…入院……?どこで…」
「申し訳ないけど、僕もそこまで詳しくは知らないんだ…。」
「…そ、か………。」
「……所詮、友人なんてそんなもんだよ。ごめん。」
「…いや、お前が謝る事じゃないだろ…。
……幸音先輩がどこかで生きてるって…それが知れてよかった…。
良かったよ……。ありがとう、幸人……。」
ごめんね、康明。
力になれなくて、ごめん。
どうしても、嘘をついてしまう形になって、ごめん…。
僕を見ていないあの笑顔が怖かった。
僕の中の黒く汚い心は、恐怖と不安に怯えて誰よりも大切だったはずの妹にも”嫉妬”という醜い感情を抱いた。
康明がいつか、どこか遠いところに行ってしまうような気がして。
幸音のもとに戻ってしまう気がして。
僕を見てくれなくなってしまいそうで、怖い。
本当のことを言えない僕を、どうか嫌いにならないでほしい。
多分、学生時代の康明を取り巻く環境が少し違っていれば。
幸音にいじめを働くような輩が居なければ
今、この時、康明の隣にいたのは間違いなく幸音だろう。
同じ楽器が吹けて、音楽の話もたくさん出来て
何より美男美女の二人は、傍から見てもお似合いだったに決まっている。
康明の隣に本当にいるべきだった人物は、
僕ではなく、幸音だ。
同じ男ではなく、細くて柔らかい女の子の方が、康明の隣にふさわしいんだよ。わかってる。
それなのに―――…っ
「康明…。話してくれてありがとう。」
僕はずるいね。
「でも、この話はもう終わりだよ。」
ごめんね、康明。
「次は、僕の事を見て…?」
ごめん、幸音。
「……………抱いて。」
嫉妬に塗れ、汚く、貪欲な僕を
「………ん、…はぁ……っ、こ、めい……あ、ぁぁ…っ」
いつまでも子供な僕を
「……ハァ…っ……幸人……っ、」
お願い、許して。
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