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氏原side‥₂
店の外の、申し訳程度に設置されている灰皿の前まで来て
康明はようやく僕の顔を見てくれた。
でも、僕の顔は涙でぐちゃぐちゃで
声を抑えるのに精いっぱい。
「おい……何、泣いてんだよ幸人……。」
指であふれる涙を掬い取られて、それでもまた溢れ出て
その場に座り込んでしまった僕にそれ以上は何も言わず、しばらく涙が落ち着くまで、康明はずっとそばにいてくれた。
「……何でもない……。
ごめ、ん。僕……っ。」
「落ち着けって。なんでもないやつの顔じゃねえよ、それ。大丈夫かよ…?」
心配そうに背中をさすりながら僕の顔色をうかがう康明の温かい瞳に、
いくつもの”どうして”が沸き上がる。
さっきまでの不機嫌そうな表情
無理やりお酒を勧めてきたり
隣に座らせたくせに一度もこちらを見てくれない
あからさまな態度。
そして今の、情けなく涙を流す僕に寄り添ってくれる優しさ。
「康明……だって、怒ってた、んじゃないの………。
僕がきたの、いやだったよね…?ごめ…っ」
涙を拭いながら、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
僕の馬鹿野郎。
泣きながらこんなことを言って、康明に
「そんなことない」と気を遣わせたいだけじゃないか。
それとも康明は、そうだ、お前がいて迷惑だと
はっきり言い捨ててしまうのだろうか。
どんな返事が返ってきても、僕はまた、涙を流すだろう。
こんな自分、嫌いだ。
弱くて卑怯で狡くて惨め。
何も言わない康明
冷たい風
店内から漏れる小さな笑い声
うっと再び嗚咽を漏らすと
ついに、康明のため息が聞こえた。
固く目を瞑り、この先言われるのはどんな言葉だろうかと恐怖におびえる。
「俺が…………怒ってたのは、その…
お前が来たからとかじゃなくて……。」
背中をさするのとは反対の手で、
康明は頭をガシガシと掻いた。
「………お前が朝から一通も返信寄越さねえし
しかも渡辺と一緒に入ってきたから…苛ついただけだ。」
「……………へ?」
間抜けな声が出てしまい、慌てて口をふさぐ。
康明を見ると、暗くてあまりよく見えなかったけど
見間違いじゃなければ
頬が赤くて
それを隠すように眉間にしわを寄せてむっと口を尖らせて
これじゃ
もう
それしか―――………。
「お前が、俺以外と楽しんでんのが嫌だった。
…………………っくそ、言わせんなよ。ばーか。」
「嫉妬、してたの……?」
すると康明は僕からぱっと体を離し、
腕で顔を隠しながら小さな声で
うっせ…と呟いた。
途端に嬉しさと愛しさが溢れ出し、ここがどこかも、すぐ近くに生徒がいるというのも何も考えず、
顔を背ける康明に、思いっきり抱き着いてしまった。
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