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氏原side‥₂
「幸人は、俺の事が好き?」
こくんと縦に首を振る。
「Rickyの事も好き?」
どう答えるのが正解なのかわからないけれど、ここで首を横に振るのは嘘だなんだといわれる。僕が彼の歌が好きだということはもう康明だって知っているから。
だから僕は控えめに頷いた。
「それじゃあ……。
あいつへの”好き”と俺への”好き”は同じ意味?」
そこは大きく首を振る。
否定の意味を込めて、左右に大きく。
それを見た康明は、少し辛そうで、でも幸せそうな
なんとも言えない表情で
僕に取り付けられていた玩具をすべて外し、
温かい手で僕の頭を愛しそうに撫でた。
「俺もやりすぎた。わかってたのに。
………ごめん。」
自由になった手で康明の頬を触る。
くすぐったそうに瞬きをする康明の目尻は少しだけ涙で濡れていた。
「……俺の事、嫌いになってない…?」
康明に問われたのはおそらく最後だと思われる質問。
首を振るだけでも済む簡単な質問。
でもこれだけは声に出したいと思った。
散々泣いて枯れた声だけど、それでもちゃんと康明に届くよう
目を見て、涙を拭いて
「康明の事、嫌いになるわけない。
不安にさせてごめんね。僕が”そういう意味で”好きなのは、康明だけだから。
これからは康明の事、悲しませないで済むように気を付ける。康明が責任感じる必要なんてないんだよ。」
くしゃりと眉をゆがめた康明が、べたべたに汗をかいている僕の身体を強く抱きしめる。
そんなことしたら康明の服が汚れちゃうよ。
もう、ジャケットの染み抜きは大変なんだから。
本当に手がかかるなあ。
「幸人、好き…。」
「僕も好きだよ、康明が大好き。」
「………ん。」
こうして涙が収まって、余裕も出てくる時というのは決まって康明が素直になってくれている時で、稀に康明が年下に感じられる時だ。
康明が泣きそうな顔をするから、僕が何とかしてあげなきゃと大人ぶってしまうんだと思う。
しばらく頭を撫でていると、ずびっと鼻を啜ってやっと落ち着いたらしい康明が口を開いた。
「…でもマジでRicky格好良くて焦った。」
「………そういうこと言う?」
「おー。てか聞こえてただろ?」
「聞こえてたよ、聞く余裕なんてなかったけど。」
「だろうな。」
くすくすと意地悪く笑う康明を、はじめは睨みつけていたけれど段々とそれもまたおかしくなってきて、2人でしばらく笑いあった。
ふと、康明のスマホに着信が入り、その相手はどうやら校長みたいだった。
Rickyの迎えが来たことを知らせてくれた校長に、康明らしからぬ丁寧な敬語を使っている姿に思わず笑ってしまったが、僕らも出会った当初は敬語で話していたと思うと
今、こうして親密な関係に慣れていることが夢のようにも思えた。
そんな長いようで短い文化祭を終え、
季節は秋から冬に移り行く。
康明と過ごす初めての冬は、きっと温かくて輝いているんだと
その時の僕はそれを信じて疑わなかった。
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