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「瀬能圭一くん…今日から高校生、なんだね…ん?」
「はい。…え?」
入学式が終わり各クラスでの顔合わせ的なHRのあと俺は、成田には声をかけず学校を出てその足で住まいの近所のスーパーにバイトの面接で訪れていた。
「今住んでいるのは…成田さん、という方の…?」
「はい、実は…自分の両親が海外に転勤になりましてですね…自分は一緒に行きたくなかったので無理を言って友人のお宅でしばらくお世話になることになりまして…。」
「ほうほう。で、この成田さんという方がキミの身元保証人ってことでいいのかい?」
「はい。あ、成田さんにはバイトを始めるということはちゃんと話して了解とってあります。」
産まれて初めて書いた俺の履歴書をしげしげと見ながら店長さんがチラとこっちに視線だけを向けてきて。
「せっかく海外に行けるチャンスだったのに行きたくなかったの?」
そう言って首を傾げた。
まあ…普通に考えたらそうだよな。
海外なんてみんな行けたら行きたいっては思うだろうし?
しかしそれよりなにより…親の転勤に子供がついて行かないってのが他人的には一番怪しいと思うところなのかもな。
ふう、と小さく溜め息をついて。
「実は………自分、飛行機に不信がありましてそれで行くとかホントに…。それとあと……英語が苦手で…」
「ははっ!それ新しいね!面白いから瀬能くん、採用。」
「え?」
ニヤニヤしながら店長はソファから身を起こして何やらの書類に判子を押した。
そしてそれをこっちによこして。
「明日から来れる?」
「え、あ、はい…」
「んじゃあ明日くる時に、この書類のこの丸してあるところに成田さんに判子押してもらって、直筆のサインしてもらって持ってきて。あとキミ名義の通帳と判子もね。」
「あ、はい…」
「明日きたら誰かにまた声掛けてくれればいいからさ。じゃあ明日、待ってるからね。」
「は、はい!よろしくお願いします。」
立ち上がった店長のあとに続いて事務所を出て裏口から外に促される。
“待ってるよ”という言葉と大きな手に見送られながら俺は浮足立つ気持ちでその場をあとにした。
正直…ダメかと思ってた。
だって今の俺は住所は“(仮)”だし未成年なのに身元保証人である親もいないし。
でもラッキーなことにこうしてここで拾ってもらえて…。
「よし!明日からがんばるぞ!」
「圭ちゃん何してんの。」
上がっていたテンションがグッと下がる。
深い溜め息をつきながらその下げてくれたヤツを振り返って…。
「何でお前がここにいる。」
「何でってここメチャ帰り道じゃん!ってか俺の質問に答えて。」
なぜかご機嫌ナナメな様子の成田に向けて更に深い溜め息をついてみせた。
「…別にいいだろ。」
「よくない!教室行ったら圭ちゃんもういないしさ!ケータイかけても繋がんないし!もう、学校中探し回っちゃったってのー!」
「一緒に帰る約束なんてしてねぇだろ。」
「同じ家に帰るのに別々になることないじゃんか!」
「あのなぁ…」
更に更に更ー…に深い溜め息を成田本人に吹きかけて。
「めんどくさい。」
一言だけそう答えて俺はヤツにくるりと背を向けた。
「ちょ…ちょっと待ってよ圭ちゃん!」
「お前うるさい。お前めんどくさい。お前は俺の母親か?」
「ワンコちゃんです。」
「俺はネコ派だから無理。」
「圭ちゃん!」
まとわりついてくる成田を手でシッシと払うけどヤツは一向に離れない。
やっと到着した仮住まいの成田家の門扉を開いてドアを開けてその中に身を滑り込ませる…と。
バタン!
背後で大きな音をたててドアが閉まった。
「ドア、壊れるだろ。」
「圭ちゃんってば!」
振り返らず言いながら先に廊下に上がってリビングに入る。
しつこいワンコは極々側で俺の名前を呼びながら追いかけてきてついにはグッと詰め寄ってきた。
「マジしつこいぞコラ!いい加減キレる……」
「圭ちゃんが言わないからだろ!」
壁に背を押し付けられ頭上からヤツの顔が近付いてくる。
くそ…この身長差が増々ムカつく!
沸々と沸いていた言い知れないイライラが一気に積もってMaxに達した。
「てめ…っ…」
「おやお帰り。圭一くん、洋介。」
怒鳴る寸前。
気の抜けるような、場に合わぬのんびりな声がしてハッと我に返った。
「父さん!」
「おじさん!」
キッチンから出てきた声同様にのんびりとした人は…俺達の、この今の状態を見て目をパチクリさせて。
「チューでもするつもりなのかい?」
そう言って楽しそうに笑った。
「はっ!?」
「圭ちゃんがいいなら…」
「はっ!?なにお前バカなの!?」
「洋介、お前は本当に圭一くんが好き過ぎるね。」
「いやぁ…それ程でも…」
「照れるとこじゃねぇだろ!」
いまだに極側からどかないヤツの鳩尾(みぞおち)にグーパンを一発入れてどかすと俺は成田の親父さんに向かって頭を下げた。
「ん?」
「おじさん今日バイトが決まりました。」
「え!?なにそれ俺聞いてな…」
「お、本当?よかったね。」
「明日からなんですけどすいません…記入して欲しい書類がちょっとありまして…」
「明日からって何、圭ちゃん!」
「いいよ。どれだい?」
「これなんですけど…」
割って入ってくる成田を無視して話を続ける。
だが諦めの悪いヤツは俺の手にある書類を覗き込んでそれを読んでいるらしく。
バイト先の場所がバレちまったな…と内心舌打ちをした俺を見てヤツはニヤリと笑った。
「わかった。じゃあこれは書いて明日の朝渡すね。」
「はい。よろしくお願いします。」
もう一度下げた頭をおじさんの温かい掌がそっと撫でてくれて。
「あんまり無理しちゃダメだからね?」
「はい、ありがとうございます。慣れるまでの間ちょっとご不便かけるかもですが…」
「晩ご飯の時間が遅くなるのはヤだからね!」
優しいおじさんとの話に文字通り割って入った成田は俺の顔をジッと見て…頬を膨らますとデカい体をグッと反らしてなぜかドヤ顔をした。
そして。
「バイト終わる時間に裏で待ってるから。」
「お前マジしつこいな。マジウザ。」
「洋介、あまりしつこいと本気で嫌われるよ?」
ははっと笑うおじさんに苦笑いを向けながら俺は、このしつこい一生物のアホワンコの足の甲を力一杯踏みつけてやった。
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