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番外編 生きるということへの執着
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これは、今から丁度1週間前のこと。
調査兵団解散の命が下され、団長と俺が共に連行されようとした時。調査兵団に所属する兵士たちが、猛抗議をした。これは反逆罪にあたる、このままでは皆処刑されてしまう。
ねぇ、なんで、どうしてですか。団長を助けて、それからどうして俺をも助けようとするんですか。俺が、みんなの翼を折ったのに。俺が、人類を死に導いた、のに。団長一人だけなら助かるかもしれないのに、どうして俺まで。
「……もう、やめて、ください。兵長、あなたが命令すれば、この場は収まります。俺なんか、どうだっていいから。団長を助けてください。お願い、します」
「ふざけんな。エルヴィンは当たり前だが、…てめぇは人類の希望だ、てめぇを失えばまた人類は反撃の機会を失う。そんなことが許せるか」
兵長の言うことも、もっともだ。しかし、そのことを天秤にかけて尚許されない失態を自分は犯したのだ。
調査兵団では、次の壁外調査に向けて一大作戦を立てていた。あの作戦さえ成功していればきっと一目だけでも海を見ることが出来ただろう。だからより確実に遂行するため、作戦に含まれていなかった人に勝手に声をかけた。きっと団長や兵長は、気付いていたんだ。それが、知性のある巨人だったということに。じゃなければ、あんな戦力を放っておく筈がないと、どうして気付けなかったのか。今までずっと味方だったから今回も味方だとは限らないと、わかっていたはずだったのに。幼い頃にあげた、赤いマフラーが俺の手をすり抜けて棚引いた瞬間に思い出した。本来ならば俺は全てを疑って、自分の目でその都度確かめて、味方を作っていかなければならなかったのだ。気付かなかった、だなんて言い訳にすらならない。おかげで人類は熟練兵士の大半を失った。これは調査兵団だけでなく、人類を、王を危険に晒す行為。こんな大罪、死んでさえ償えるようなものではない。
団長は完全にとばっちりだというのに、文句の一つも言わず、俺に大丈夫だと笑う。余計にやり切れない思いがこみ上げる。いっそ責め立ててくれたら、と。思うが、それこそ甘えだろう。それで償っているつもりになるなんて言語道断だ。
そんな中、その場を収めたのは団長だった。静かにただ一言、これが報いだ、と。涙が止まらなかった。嫌だ、どうして団長が。俺が、俺の責任です、団長は何も悪くない。最後まで叫び続けてはみたけれど。事の発端で、化け物で、新兵である俺の言葉が受け入れられるはずもなかった。
それから団長は裁判にかけられ、6日後に大衆の前で処刑されることに決まった。原因である俺よりも早く処刑されるのは、きっとより罪悪感を増幅させるためだろう。最悪なのは、それまでの間団長に一目会うことすら叶わないことだ。俺は、地下牢に鎖で繋がれ、10日後に広場で処刑されるその時まで、太陽を拝むことすら許されていない。
「もう、やめたい、よ…」
こんな繰り返しだって、海をいつか見る、そのためだけに。何度死んでも、何度傷付いても、悲願のためだから。…それだけだったのに。
もうこれ以上、俺のせいで誰かが死んでいくのは見たくない。もうこれ以上、殺したく、ない。
硬いベッドに身を投げ出す。ベッドはぎしぎしと悲鳴をあげているが、気にならない。もう、眠ってしまおうか。俺は贖罪することすら許されていない。このまま眠って、起きたら処刑台、だなんて笑ってしまうようだけど。
ああ、いつからこんなに歪んでしまったんだっけ。もう随分と、素直な目で物事を見られていない気がする。長生きなんてするもんじゃないなぁ、と呟き、自嘲気味に笑う。
『もう、諦めるのか?あんなに、海を見るまで死ねないって、誰よりも執着していたのに。』
誰だろう、知らないはずだけどいつも聞いてきたような声が、遠くで響いた。
うん、そうだよ。もう、疲れた。これ以上、耐えられない。大事な人を、これ以上殺すなんてできない。
『……長く、生きたな。もうこのまま、君に次はない。絶望したまま、終わってしまうのか?』
どうして、お前は俺を引き留めたいのか。どうせ絶望しかなかった世界だ、これから先いつ解放されるのかの目処もたたない、……もしかしたら人類には滅びの道しかないのかもしれない。そんな中、これ以上頑張る気にはなれない。もう、十分だ。母さんの死も、ミカサの泣き顔も、アルミンの叫びも、兵長の背中も、もう。
『そうか、わかったよ。俺の見立てが間違っていたようだ。君なら、この世界のただ一つのゴールを見つけられるかと思ったんだけどな。……じゃあな、エレン。おやすみなさい』
なんだ、それ。ただ一つのゴール?そんなもの、本当にあるのか。どうして、待って、この世界に終わりはあるの?どうして、待って、待てってば、なぁ、おい!
「どうして、全てを投げ出した後に、欲しかった答えが返ってくるんだよ…」
やっぱり、世界は残酷だ。
そして。
おまえは……だれ、なんだ?
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