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番外編 彼らへの愛
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明日、俺は明日処刑される。
常ならば、来たる『次』の世界へ向けての準備をしていただろう。けれど今度こそ、次はなくなった。俺が諦めたから。未来が見えなくなって、全てを投げ出したから。俺の二千年の戦いは、ここで幕を降ろすのだ。
正直自分でも驚くほど落ち着いている。これで本当の意味で全てが終わるというのに、まるで実感が湧かない。これから死ぬというのに、恐怖も何も感じない。まるで本当にバケモノみたいだな、と独り言つ。
いっそ他の全てと同じように、たった一度きりの人生で幕を閉じてしまえればよかった。そうすれば、きっと死に際くらいは人であるように終われたかもしれないのに。こんな、殊更自分が化け物であると感じずに済んだかもしれないのに。……なんて、全ては憶測であり、本当にどうかなんて測ることも不可能で、ただの自分がこうであって欲しいという理想論でしかない、のに。そんなこと、わかっている。
長かった。本当に、長かった。本当の時間などとうに忘れたが、きっとそれは千年にも二千年にもなっただろう。何度全てを放り出そうとしたことか。何度絶望したことか。何度仲間の死を見て、何度泣き叫んで。それでも諦めきれなくて、縋り付いて。それだけ苦しんで足掻いてきた結末がこんなに、呆気ないものだとは。
この世界は、俺みたいな餓鬼には、残酷過ぎた。俺は、到底この世界の住民として、及ばなかったのだ。きっとあの声の主が言うような『ただ一つのゴール』を見つけられるのは、この世界に認められたであろう誰かで。それは決して俺なんかではなかった。もし『エレン』だったとしても……それはこの脆弱な『エレン』ではない。どこかの世界で生きているのかもしれない、本当の意味で『人類の希望』たりうる『エレン』だったのだ。
考えれば、本当に短絡的で、本当に最低な死に方だと思う。だって今回の俺は、人類全てを危険に晒して、これから先の希望も全て摘み取った挙句、のうのうと死んでいくのだから。
そんな最低な俺だから。絶対に、俺を許さないで。
このままいけば、きっと人間同士の争いが絶えず続くことになるだろう。熟練兵士の大半が戦死し、武器も破壊され、食物も僅かの備蓄しか残されていない。もう巨人への対抗手段どころか、生きることすら難しくなる。そうなれば少しでも生き残ろうと、自然と巨人ではなく同じ人間に矛先が向けられるようになるだろう。そんな時、一つでも共通の敵がいたならば。しかもその脅威がこの世に存在しないとなれば。…結果は、考えずともわかる。
俺だって大衆に恨まれ、憎まれ、罵倒の数々を浴びせ掛けられるのは、辛い。けれど俺に出来るのはこのくらいしかないから。……最期は悪役らしく、終わってみせよう。
ごめんなさい。ごめんなさい。大好きだった。皆が。残酷だけれど、だからこそ美しい、この世界が。
こんな最後にしてしまって、ごめんなさい。諦めてしまって、ごめんなさい。結局何も変えられなくて、終わらせることができなくて。
せめて、人同士で争わないで。そこに俺はいないけれど、これ以上、悲しい世界は嫌なんだ。
誰にも、何も伝えることは出来なかったけど。ただ一つ、それだけを願う。
ーーー大好き、でした。
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