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「俺の母親の兄の妻の兄から聞いた話らしいんだが…」
「どんな遠い親類だよっ。ややこしいわ…っ」
「…真葛おまえ、後で覚えとけよ」
「うわっ、テンプレなセリフ…」
「天清」
僕が天清の手を強く引いて睨むと、天清は、口を噤んで目を逸らした。
天清が先生を嫌いなことはわかってる。たぶん、それは僕が原因だし。でも今は、口喧嘩をしてる場合ではないんだ。
「天清、早く二人になりたいだろ?だから、大人しく話を聞いてて」
「…わかったっ」
天清の顔を下から覗き込んで、上目遣いで言うと、不機嫌な顔が一気に笑顔になった。
天清は、胡座から正座に変えて、背筋を伸ばして先生の次の話を待っている。
こんなに単純じゃ、いつか詐欺とかに引っかからないだろうか…と心配になりながら、僕も先生を見上げた。
「先生、ごめんね。もう大丈夫だから、続き話して」
「お、おう…、なんか飼い主とペットを見てるみたいだな…。でな、その人が言うには、その頃に人間を喰らう鬼がいたらしくてな…」
「人間を?」
ブツブツと失礼なことを呟きながら、先生が話し出した内容に、僕は驚いた。
確かに鬼は、人間の血をすすったり肉を喰らったりすると聞いた。でもそれは、何百年も昔の話。ここ数百年は、人間と同じ物を食べたり、動物の血で代替していた筈だ。
稀に、人間から少量の血をもらうことはあっても、傷を治して血を吸った記憶も消して、人間を解放していたみたいだ。
「そんな露骨に人間を喰らう鬼がいたの?」
「俄に信じられない話だがな、いたそうだ。喰らった後は、人間が立ち入れない山奥に捨て去るから、中々発見されない。人間側では、行方不明者が多発していると、多少騒ぎになっていたらしいが」
「じゃあ、舜さんのお父さんは、その鬼を退治しようとして…」
「しゅん…って、おまえを襲った危ない奴か。そうだな、たぶん、その鬼と戦った人間とは、そいつの父親のことだろう。行方不明の娘を必死に捜して、鬼の存在に辿り着いた人間が、退魔師に依頼をした。その依頼を受けてやって来た退魔師は、かなり鬼を追い詰めた。まあ…結局は鬼が勝って退魔師は血塗れで倒れていたらしいが…。でも鬼もさ、片目と片腕を失ってたみたいだぜ?」
先生に頷きながら、僕は舜さんのお父さんのことを考える。
彼は、退魔師とはいえ人間の身でありながら、どんな思いで鬼と戦ったんだろう。
たくさんの失われた命を思いながら、大切な人を失った人の悲しみを感じながら、命をかけて戦っていたんだろうか。でもそれで、自分は命を落として、妻と舜くんの心を壊した。もっと他に、何か違う方法が無かったんだろうか。
舜くんの気持ちを思って胸が苦しくなる。
僕は俯くと、震える唇から細く息を吐き出した。
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