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嫌われ者
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「それで、その設定を変更すると、現象は改善されるの?」
お怒りモードの客先の係長が、プロジェクトリーダーの吉田に聞いた。
今回の現場は、木佐と周平の二人が一緒に支援に入っていた。
「はい。他のユーザーさんでも、だいたい、その設定にしてあって、問題なく動いています」
吉田は朗報を伝えるようにそう答えた。
「あのさあ、設定を変えて改善される具体的根拠を知りたいの。
他がそうやってるから大丈夫って、そんないい加減な話ないでしょ」
吉田は既に客先からの信頼を失いかけていると、このプロジェクトのヘルプに入るときに蔭山から説明があったのを、周平は思い出していた。
「私が参考にしたのは、だいたい同じ規模のユーザー様で・・・」
「じゃあなんで、最初からその設定にしてないのさ」
「稼働時は担当じゃなかったんで、ちょっと、その辺の経緯はわからないんですが・・・」
「じゃあ、当時の担当者に聞けばいいでしょ」
「少しお時間いただくことになりますが・・・」
「障害で困ってんのに、時間なんてかけられちゃ困るよ」
「すみません。ちょっとよろしいでしょうか」
顔を引きつらせながら口を開きかけた吉田をさえぎって、木佐が口をはさんだ。
「今の設定は、稼働時に見積もられたデータ量やユーザー数から判断したものだと思われますが、当初はそれで問題はありませんでした。その後、ユーザー数が増えたようですし、新しいシステムもいくつか導入されたので、どこかのタイミングで設定の見直しが必要でした。
その見直しをしてこなかったことが、今回の障害の原因の一つでもあります。
そういうことが起こらないように、今後の対応を考えなければなりませんが、まずは、今の障害を解決することを優先させていただけますでしょうか」
木佐は、係長が「そうだな」とうなずくのを確認すると続けた。
「それで、今回の変更についてですが・・・」
木佐はホワイトボードを借りると、変更しようとしている設定の意味するところを説明し始めた。
もともと、吉田に設定変更を提案したのは木佐なので、説明できるのは当たり前といえば当たり前だ。
残念ながら、吉田は係長のように根拠を聞かずに、結論だけを聞いて客先に向かったために、このような結果になってしまったのだ。
「なるほどね。そう言うことなら、お願いしよう。
やるなら早い方がいいな。今夜できる?」
「こちらは大丈夫ですが、その間システムを止めるので、関係者へのアナウンスは大丈夫でしょうか」
「そこはなんとかする」
すっかり、機嫌の治った係長と木佐がどんどん話を進め、最後に木佐が吉田に向かって「問題ないよな?」と顔を向けた。
吉田は「ああ」と一言答えただけだった。
こういう展開になったことを面白く思っていないのは明らかだった。
対応が完了して、木佐と周平が引き上げるとき、吉田は礼を言うどころか、「俺には情報を隠して、自分だけいいかっこするんだな」と不満をぶちまけた。
「隠してたわけじゃない。お前が聞かないから、言わなかっただけだ」
「聞かなくたって、説明するべきだろ」
吉田の言葉に、木佐は鼻で笑って背を向けた。
「あほか。相手はプロジェクトリーダー様なんだから、聞かれなきゃ、これぐらいわかってるって思うだろ」
駅までの帰り道、周平は、せっかく支援に入って、問題を解決したのに、感謝されるどころか嫌味を言われるのは理不尽だと納得がいかなかった。
ただ、それは、木佐の態度にも一因があると思った。
「木佐さんは、ユーザーさんには気を使って話ができるのに、なんで、社内の人たちにはそうしないんですか」
「社内のやつらに気を遣うなんて、めんどくさいだろ」
「でも、敵を作ってばかりだと、いざというときに誰も助けてくれませんよ」
「他の奴らに助けてもらわなきゃならなくなったら俺も終わりだよ。
あ、最後にあそこのラーメン食ってくか。もう、ここに来ることもないもんな」
昼休みに毎日のように通ったラーメン屋を見ると、木佐が足を向けた。
今回の仕事で、木佐がラーメン好きだということを周平は知った。
正直、毎日ラーメンは飽きていたのだが、当たり前のように木佐がその店に入るので、仕方なく周平も付き合っていた。
もう最後だと思うと、名残惜しい気持ちも出てきて、周平は「はい」とついて行った。
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