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木佐との再会
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そうして、1か月が経過し、仕事が一段落着いた時、ふと、木佐に連絡してみようかという考えが頭に浮かんだ。
同じチームだったころ、万一何かあったときの連絡先として、個人携帯の番号を聞いていた。
電話したら、おかしく思われるだろうかとためらいつつも、このまま、木佐と音信不通になってしまうのは嫌だった。
金曜の夜8時過ぎ、会社を出たところで木佐に電話を入れた。電話に出た木佐の声は不機嫌そうだったが、名前を名乗ると、予想外なことを言われた。
「なんか食うもん、買ってきてくれ」
「今からですか?」
「ああ。熱があって死にそうなんだ。冷たくて口当たりのいいもんがいい。今から住所言うから、ググれ」
周平は慌てて、木佐の家の住所をメモした。
木佐の家の最寄り駅近くのコンビニで、アイスとゼリーとプリンとスポーツドリンクを買い、急いで木佐のもとへ向かった。
家に着くと、ジャージ姿の木佐からマスクを渡された。
「本当に来るとはな」
「自分で来いって言ったくせに、何言ってるんですか」
「いざというときに誰も助けてくれないって言ってただろ」
「実は気にしてたんですか?大丈夫ですよ。
他の人は知らないですけど、僕は木佐さんのこと好きでしたから。
尊敬してたし、一緒に仕事して楽しかったです」
「風邪がうつっても知らないぜ。もしかしたら、風邪じゃなくてインフルエンザかもな」
木佐が顔を背けてそう言った。おそらく、言われ慣れないことを言われ、どう反応して良いのかわからなかったのだろうと思った。
そんな木佐をかわいいと思いながら、周平は慌ててマスクをつけた。
「病人は寝てください」
木佐はベッドに戻ったが、周平が買ってきた袋をのぞき込み、スポーツドリンクを取り出して、残りを冷蔵庫に入れるよう周平に差し出した。周平はその言葉に従い、木佐の元に戻った。『熱があって死にそう』と言っていた割には元気そうでほっとしていた。
「電話してきたのは、なんか、用だったのか」
「用ってわけではないですけど、木佐さんが会社を辞めたときに、ちゃんと挨拶ができなかったんで」
「メールくれたろ」
「読んだなら、返事ぐらいください」
「読んでない。たぶん、くれたんだろうと思ってそう言っただけだ」
周平は一瞬言葉を失った。自分が木佐にメールを出すだろうと思ってくれたということが、自分でも意外なほどうれしく感じていたが、照れ隠しのように思いとは裏腹のことを口に出した。
「他に面倒見てくれる人はいないんですか。彼女とか」
木佐が口を開きかけた時、人が入ってくる音がした。周平が玄関の方向に目を向けると、そこには蔭山がいた。
周平の視線は、蔭山の右手に握られたカギにくぎ付けだった。
「大本、来てたのか」
蔭山は戸惑ったようにそう声をかけてきた。
「木佐さんに、食べるものを買って来いって言われたので・・・」
弁解するように、そう答えていた。
「おい、ちゃんと寝てないとダメじゃないか」
周平の返事を聞いていなかったように、蔭山は木佐に向かった。
無理矢理ベッドに寝かせて、布団をかけ、額に手を当てた。
「熱いな」
ただの上司が、インターフォンも鳴らさずに部屋に入ってくるだろうか。
ただの上司が、あんなふうに部下の体に触れるだろうか。
このワンルームに二人で住んでいるとは思えなかったが、一緒には住んでいなくても、合い鍵を持つ間柄なのだ。
周平は立ち上がった。蔭山が来たのなら、もう自分の出る幕はないだろう。
「帰ります」
木佐も蔭山も引き留めなかった。
帰り道、だから蔭山さんは木佐さんを特別扱いしていたのかと考えた。
そして、だから、木佐さんと自分を別のグループにしたのだろうかと考えた。
上司として、蔭山さんを好きだった。
だから、仕事に自分の感情を持ち込んでいたとは思いたくなかった。
木佐さんが会社を辞めて、自分が独り占めできて満足なんだろうか、そんなことを考えている自分が嫌だった。
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