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木佐と周平
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木佐の家で蔭山に会って以来、周平は蔭山と顔を合わせるのが嫌だった。
幸いなことに、直接の上司でなくなり、フロアも変わったため、滅多に会うことはなかった。
数週間がたったころ、残業している周平の横に蔭山が立った。
「悪いけど、ちょっといいか」
ミーティングスペースに連れて行かれると、蔭山は上着のポケットから茶封筒を出して、テーブルの上に置いた。
「仕事の話じゃないんだけど、これを木佐に渡してくれないか」
中身を聞くのは立ち入ったことだと思い遠慮した。
ただ、なぜ自分に頼むのかを不審に思い、蔭山の顔を見た。
「もう、あいつに会うことはなくなったんだ。
だから、悪いけど頼まれてくれないか。
他に頼めるやつがいなくてさ」
「わかりました」
「サンキュー。木佐には連絡しておく」
蔭山は明るくそう言うと立ち上がった。
一人残された周平は、茶封筒を手にした。中に入っているのは鍵のようだった。
土曜日、木佐の家を訪ねると、相変わらずのジャージ姿で迎えられた。手土産のビールを差し出すと、「気が利くじゃねえか」と受け取り、2缶出して、残りを冷蔵庫にかげ入れた。
木佐の部屋には椅子というものがないので、床に向かい合って座り、ビールを開けた。
「これ、蔭山さんから預かったものです」
茶封筒を床の上に置いたが、木佐は「ああ」と言ったきり、受け取らずにそのままにしていた。
「人を宅配業者のように使っておいて、何の説明もなしですか」
二人の関係のことで、自分が利用されているのが嫌で、自分が思っているよりもとげとげしい言い方になってしまった。
「お前に頼んだのは俺じゃなくて、蔭山さんだろ。
俺だって、なんでお前に頼んだのかわからない。
知りたかったら、頼まれたときに聞けばよかっただろ」
木佐の言う通りだった。
「すみません」
周平がそう謝ると、沈黙が訪れた。周平は意を決して疑問点をぶつけることにした。
「なんで、蔭山さんが木佐さんの家の鍵を持ってたんですか」
「一度、俺が出社しなかったときに、一人で死んでると困るから、鍵を渡せって言われて渡したんだ。
でも、もう必要なくなったから返してもらった」
ただの上司がそんなことを言うだろうか。
二人の距離感がわからず、周平のもやもや感は消えなかった。
必要なくなったとは、上司と部下の関係ではなくなったからなのか。
付き合っていたのかと聞いたら、おかしく思われるだろうか。
自分の木佐に対する思いがばれてしまうだろうか。
そんな周平の顔を見て、木佐が再び口を開いた。
「納得いかないって顔だな。
実は、蔭山さんは副業でここのマンションのオーナーやってるんだ」
「そうなんですか!?」
「かもしれないし、実は、俺は蔭山さんの親せきの子かもしれないし、もしかしたら、隠し子かもしれない。それか、俺とあの人が付き合ってたのかもしれないし、ここで二人で仕事をしていたのかもしれない」
唖然として木佐の顔を見ている周平に、木佐は続けた。
「お前と蔭山さんは同じ会社の人間だ。蔭山さんのプライベートのことを俺が勝手に話すわけにはいかない」
そうなんだ。この人は、自分の思いもよらないような気づかいができる人なんだ。
「そうですね。すみませんでした」
どういう関係だったにしろ、もう、蔭山さんは鍵を持っていない。
それでいいじゃないかと自分に言い聞かせた。
「あの、おいしいラーメン屋を見つけたんですけど、今度一緒に行きませんか」
「近くか? じゃあ、今から行くか」
「行きましょう」
それからも、毎週のように周平は木佐を誘い、木佐も誘いを断らなかった。そういうことが2か月ほど続くと、週末には二人で一緒にいるのが当たり前のようになった。
その間、周平は、時には自分の思いが伝わっている手ごたえを感じたり、それは勘違いだと落ち込んだりを繰り返した。
「時々、木佐さんがどういうつもりなんだかわからなくなります」
その晩、木佐の部屋で飲んでいた時に、周平は自分を抑えることができずにそう言っていた。
「何が?」
「こうやって、毎週、俺と会ってくれてることがです」
「俺だって、お前がどういうつもりなのかわからない」
「それって・・・」
周平は立ち上がり、ずっと気になっていた棚の上の鍵の入った茶封筒をつかんだ。
「これをもらっていいってことですか」
「そんなことは言ってない」
慌てて立ち上がり、茶封筒を取り返そうとする木佐を、周平は抱きしめた。
「じゃあ、こうしていいってことですか」
「まあ、これならいい」
木佐の返事を聞いたとたん、周平の抑えていた気持ちがあふれ出し、気持ちに流されるままキスをした。
あまりの勢いに、木佐が数歩後ずさったのを利用して、そのまま、木佐をベッドに押し倒した。
「展開が早いな」
「ずっと、我慢してたんで。木佐さんは?」
「まあ、俺もだな」
「なんだ。もっと早くこうすればよかった」
周平がそう言うと、木佐は笑った。
おしまい
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