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第二部 トラム編:2章『ベヴァイス~証拠~』【side リラ】…(7)
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◆◇◆◇◆
「……」
「…? 君は…」
「え、え…? な、なん、なんで、え~? なんであんたがここに居んの?!」
安心している僕を余所に、トラムは絵にかいたような混乱ぶりで“先生”を見つめている。
そこで僕は初めて気がついた。
そうだ、トラムには“先生”があのライツ先生だということを話していなかったかもしれない。
「それはこちらの台詞だと思うのだが」
お互いなぜここに居るのだという顔でお見合いしている二人に状況を説明しなければいけないのは僕なのだけれど………
「先生…」
「…? リラ…?」
「なかなか帰って来ないから心配したぞ」
「…ごめんなさい」
ここが学校ではなく家に近い領域だったせいで、目の前に現れた先生に、すぐさま心を溶かされてしまった…。
今はトラムが居るんだから、ちゃんとしないといけないのに。
「……え、まさか……え…?」
「だから何なんだね君は」
「“先生”って………………ライツ先生だったの?!!」
「……うん、そうだよ」
まるで石にでもなってしまったみたいに、あんぐりと口を開けたまま固まってしまったトラムと、それを見てあからさまなため息をつく先生と。
そんな2人の様子を見たら、何だか学校で会った時とあまり変わらなくて、僕は少しだけ客観的な目線を取り戻すことができた。
「先生、この子がトラムですよ。僕たちの事情を唯一話してある」
「………ほぅ?」
「………」
…でもやっぱりそれは少しだけで、僕はだんだん先生の顔をまともに見ていられなくなっていた。
ーー今度は甘ったるい気持ちではなくて、今聞いたばかりのトラムの話が頭を駆け巡ってきたからだ。
「………せ、先生、僕これから、森の外までトラムを送って来ますね。すぐに戻るので、心配しないでください…」
何か言いたいような何も言えないような難しい顔のトラムを急かして、何とかこの場を離れようとした。
…けれど、黙ってトラムを見つめ続けていた先生が、急に予想外の言葉を投げてきた。
「いや、その必要はない」
「…え?」
「リラ、私はこれから出掛ける。帰宅は明日の朝になる。君、今夜は泊まっていきなさい」
「……えっ?」
僕とは違ってしっかりと教師の顔になっている先生が、あくまで生徒であるトラムに淡々と提案……というより指示をしている。
この流れに、僕は自然に乗ることができた。
「そうなのですか? 今からお仕事なんて大変だ…。気をつけてお出かけくださいね」
「あぁ」
硬い革靴の音を夜の森に響き渡らせて、あっという間に先生はどこかへ行ってしまった。
「だ、そうです」
「どえぇ~っ!? ちょっと、何勝手に決めてんのっ!? ぼくまだ何も言ってないんだけどっ!!」
「ちょうどよかったね。送る手間も省けたし。せっかくだからおいでよ」
「で、でも…」
「あぁ、パンツの心配? それなら買って未開封のがあったから大丈夫だよ。トラムって潔癖なところあるからねえ」
「そうじゃなくて………はぁ、もういいや。おじゃまします…」
正直、助かった。
今だけは、先生と二人きりになったらどうしていいかわからないし、独りにされるのはもっときつい。
トラムが来てくれることになって、心底ほっとした…。
◆◇◆◇◆
けれど、家に近付くにつれてトラムの足取りが少しずつ重くなるのを見て、やっと思い出した。
そうだよ、ここは…悪魔の棲家は、トラムにとって最も来たくない場所だったはずだ…!
「…っ!」
「…? 急に止まってどうしたのさ」
「ごめん…僕、自分のことしか考えてなかった……トラムをここに連れてくるなんて…最低だ……っ!」
「……」
「ごめん! やっぱり引き返そう…」
「べつにいいよ。あそこが今どんな風になってるのか、ぼくも気になるし」
そう言うと、先ほどまでの重い足取りはどこへやら、トラムはすっかりいつもの調子に戻り、僕を置いてさっさと先に行ってしまった。
(――…)
打ち明け話が終わってからも、なんだか今日はトラムに驚かされることばっかりだ。
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