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回り出す歯車
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違和感は、徐々に焦りに繋がっていく。
問題が全く解けない。
さっきまでの異様な光景に頭が混乱しているのだとしても、あまりにも分からない問題ばかりだ。
もともと大した成績の訳ではないが、自分の中で数学はどちかというと出来る科目のはずだった。
ましてや今回の範囲は自分でも80点は固いのではないかと思うくらい深くまで理解したつもりだった。
それが、後10分弱でテストが終わるにも関わらず、ほとんど白紙の状態なのだ。
シャーペンを握る右手はさっきから尋常じゃないほどの手汗をかいている。
前回のテストの時には答えだけ書く基本問題の序列だったのに、今回は異様に難しい問題ばかりで、それも記述式のものばかりなので当てずっぽうの数字を書くわけにもいかない。
手も足も出ないとはこういうことを言うのだと痛感する。
そしてさらに俺を焦らせているのは、始まったときから教室に響き渡る止まることなくャーペンでカリカリと答えを埋めていく音だ。
みんな、このテスト解けているのか??
先ほどの新庄先輩の痴態がさっきから何度も頭をかすめる。
「キーンコーンカーンコーン…」
「やめ。筆記用具を置いて、速やかに後ろから答案用紙を裏返した状態で自分のものが上になるように回せ。」
なにかが変わるわけもなく、ほとんど白紙のまま1教科目のテストが終わった。
……終わった。
20分間の休憩に入り、教室内がざわめきだす。
「思ってたより簡単だったな!」「80点は取れそう!」
そんな声がちらほら聞こえてきて、自分の体が冷たく感じ、一人取り残されたような感覚になる。
「…黒瀬、大丈夫?元気なくね?……テストやばかったのか?」
前の席の矢野が、振り向いて俺の顔を覗き込む。
「……結構やばいかも。今回のテストめちゃくちゃ難しかった気がすんだけど。」
「……まあ、そういうときもあるよな。黒瀬そんなに頭悪くないんだし、こっから挽回すれば大丈夫だよ。」
矢野はあえて難易度の部分には触れず淡々とした口調で俺を慰めた。
そこに俺は本格的な不安を募らせ、どんどん息苦しくなる。
「黒瀬-、矢野-、どうだった?俺結構いけた気がするんだけど!やっぱ努力は期待を裏切らないな!!」
ハイテンションで宮森がこっちへやってくる。
その嘘のないからっとした笑顔と、陽気でベラベラと話の止まらない宮森に俺は結構元気をもらっていたはずなのに今は苛ついてしょうがない。
「それよりさ、さっきのやばかったよな、新庄先輩。俺実はさ、新庄先輩と中学一緒で、ちょっとだけ話したことあったんだけど、その時はなんか部長!って感じの人でさー。」
「アバウトすぎてよく分かんねえよ。てかその話初耳なんだけど。」
矢野と宮森の話もあまり耳に入ってこなくなる。
「うーん、だからなんか頼りがいがある男!って感じのめっちゃいい先輩だったから今日の見て変わりようにびっくりしたっていうか。まさか苗字は同じでもあの中学の新庄先輩だとは知らなくてさ。テストも最初の10分くらい頭ぼーっとなってたわ。」
「お前、そんなんで本当に大丈夫なのかよ?その新庄先輩にお前がなっても知らねえぞ。」
「さすがにそれはないっしょ。なっ黒瀬」 っバン!
俺は思わず机を手でバンと叩いて立ち上がった。
「……悪い、俺ちょっとトイレ。」
そしてこの場から逃げるように教室を飛び出す。
「……なんだ?黒瀬、腹でも痛いのかな?」
「さあ、どうだろうな。」
「何?なんで矢野そんなににやついてんの?面白いとこなんてあった?」
「……面白くなりそうだな」
「えっ何?なんか言った?」
「いや、別に。俺次のテストの最終確認したいからお前もう席戻れよ。」
そんなやりとりを知るよしもなく俺はトイレの個室で一人、奴隷はいやだ、奴隷はいやだ、それだけを頭に巡らせていた。
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