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Side story:新庄 良【2】
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俺は少し見とれてしまった後、ここが図書室だったことを思いだした。
「あっ、……すみません。」
そして子供みたいに心を躍らせながらここへ来たところを見られて恥ずかしくなり俯きながらぺこりと頭を下げた。
すると、俺の言葉を聞いた中村は優しく微笑む。
白い肌が光に当たり清潔感を漂わし、優しげな垂れ目がふんわりとした印象を与える。
中村が手にしていた本をぱたんと閉じた。
ただそれだけで、ここが普通の学校の図書室ではなく、神秘的な隠れ部屋であるように感じさせるほど中村は魅力的に見えた。
「別に俺だけだから大丈夫だよ。後、同じ1年なのに敬語は寂しいな、新庄。」
「えっ、あっ、同じ学年か。あれ、何で俺の名前?」
「……1度話したことあるんだけど、忘れちゃったかな?まあいいや。俺は3組の中村。よろしくね。」
「あっ、うんよろしく。ごめん、覚えてなくて。それからうるさくして。」
「いいよ、ほんの少し話しただけだし。」
そう言うと中村は、窓の外をちらっと見た。
2階の図書館からはグランドがよく見え、サッカー部が「1,2,3」と揃えて何かをしている掛け声だったり、廊下のザワザワした声が聞こえてくる。
けれどそのどれもがこの空間とは相反したものに思えた。
そんな中村の独特で不思議な雰囲気に魅入られ、俺はもう少し中村と話をしたくなった。
「……中村も読書好きなのか?」
俺は躊躇いながら聞いてみる。
「……うん。そうだね、好きだよ。自分の世界に入り込めるところとか。新庄も本好きなの?」
「うん、好き。俺も自分の頭の中に自由に、その、上手く言えないけど景色とか、登場人物の表情とか、描けるところが好きで。だけど俺のイメージとは違うみたいだから、友達には言えてないんだけど。」
いつも聞き手に回ることの多い俺が、何だか中村の前ではベラベラと聞かれてもいないことをどんどん話してしまう。
すると中村は口元をニヤッとさせて言う。
「ふーん。じゃあ俺以外誰も知らないんだ?」
その表情に、まだ知り合って間もない中村の裏の顔を見たようで、だけどそのセクシーな笑い方に、ドキッとした。
「……うん、まあそうだね。」
「なんか嬉しいな。俺しか知らない新庄。俺もっと新庄のこと知りたいなー。」
「えっ!」
俺は中村の言葉に驚いて固まる。
その間に中村は本を前の机に置くと俺の方へやってきて、ドアの前にいる俺のすぐ前へ立った。
ちっ近い。
というか、俺よりも背が高い!
俺は自然と中村を見上げる形になる。
「明日もここに来るの?」
「…………明日は部活だから来ない。」
「部活終わるまでここで待ってる。」
「えっ!あの……」
すると中村は俺の顎下に手を添えると顔をぐっと近づけて、吐息がかかるくらいまで距離を縮める。
「だからちゃんと来てね。約束。」
そう言うと俺の頭を添えていた手で撫でて、図書室を後にした。
「じゃあ、また明日ね。」
「…………。」
…………。
…………。
なんだ!?
俺はズルズルと背中をドアにつけたまま座りこんだ。
顔が熱くなっていて、鏡を見なくても赤くなっているのが分かる。
間近でみた中村の顔を思い出して、同性相手に照れてしまう自分に驚く。
なんだあれ!?
……あんなの反則だろ。
気がつけば図書室の窓からは赤い夕日が暖かく部屋を包みこんでいる。
しばらくしてやっと頭が現実へ戻ってくると俺はゆっくりと立ち上がり、さっきまで中村のいた席へ歩いていき机の上に置かれたままの本を手にとった。
その時、俺はまた別の意味で驚き、声を上げた。
「あっ!」
それは俺がその日読もうと思っていたあの「カージャックの冒険書」第三巻だった。
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