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許嫁
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俺が小学校を卒業した春のある日、それは突然家にやって来た。
「誰、これ」
母さんに呼ばれて降りてきたリビングのソファには、正装をした男の子が体を硬くして座っていた。服は綺麗だけど、長い髪と細い足が何だかその子を小汚く見せている。
男の子の向かいに座っている父さんがやっと口を開いた。
「香山さん家の子だ。名前は梓。将来お前の番になる」
「番…?」
まだ子供とはいえ、アルファとオメガの『番』関係については何となく知っていた。同級生の中にはそんな親を持つ子だっていたし、『運命の番』とやらは女の子たちが素敵だときゃあきゃあ騒いでいた。
しかし、まさか俺にそんな話が来るとは思いもしなかった。まだ義務教育の途中だっていうのに今から将来番う相手が決められるのかよ。しかもチビで暗くて薄汚いコイツが…?
「俺嫌だよ。そんなのいきなり言われても困るし俺にだって選ぶ権利はある」
「お前はアルファだ。これからその特性がもっと出てくるだろうし、オメガのフェロモンにも反応し始める。勝手に誰かと番われたら困るんだよ」
確かに、これからオメガバース性の特性が現れやすくなる年齢ではある。小学校の保健で耳にタコができるくらい言い聞かせられた。
『オメガは自己防衛を』
『アルファはフェロモン対策を』
『能力に差が出始めるから自分をよく知る事』
どうやらそういう事がこれから大切らしい。
「…この子なら良いって言うわけ?」
「あの香山の家の子だ。これからの付き合いを考えればマイナスな事は何一つ無い」
その言い方に眉をひそめた。要は、互いの家の利害関係で相手を決めたわけだ。
「話は終わりだ。藤、この子を二階の角の空き部屋に案内してやれ」
「……気が乗らない」
「藤」
「…分かったよ。君、ついて来て」
ひくりと体を跳ねさせた梓は、ゆっくりと立ち上がった。相変わらず長い髪で顔は見えないまま。
「よ、よろしくお願いします」
小さな声でそう言って、丸まっていた体をさらに曲げた。俺はそれを無視して、さっさとリビングを出た。
後ろを懸命についてくる梓を気遣うこともなく、足早に歩く。
これからの生活と将来を考えて、思わず舌打ちをした。
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