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嘘つきの話*
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べにがぶエイプリルフール
番外編といいますか
――
「また私の女に手を出したか」
事の始まりはとても単純であった。パリの夜は華やかだが、そこに潜む闇もまた深い。明かりの付いていない部屋に二人の男の影があった。
「いつからお前の女になったんだか」
それがマフィアの重要人物だと判明したら、警察は緊迫しながら扉を突き破っただろう。だがそのような事は彼らの機密さ故起きそうもない。シーツの擦れる音すら聞こえるほど静かな夜だった。
「……で、俺を襲うと」
ベッドに押し倒されても薄ら笑いを崩さないガブリエルに紅月は眉を顰めていた。
「ま、俺とヤれば彼女とヤったことになるもんな、面白えの」
ガブリエルは笑いながら彼の肩に生えた羽毛を撫でた。ぞく、と粟立つ感覚を覚えた動きを見て軽く舌を出して挑発すれば、紅月が眉間の皺の数を増やす。
「それほど興味を抱くほど魅力的な奴ではない」
「ふうん。じゃあ嫉妬してる?」
彼らの"人為的に"青くなった瞳が、街の照明を拾い暗い部屋に輝く。
「……何にだ」
「俺のほうが魅力あることに」
紅月が、鴉のように黒く鋭いガブリエルの髪に触れる。お互いの間にあった緊張感を解すためであった。
「違う」
「違うか、そうだよな、だってお前は」
俺を奪った女に嫉妬してる、そうだろう?ガブリエルが言葉を紡ぐ前に口を彼の唇で塞がれた。私の負けだ、という相手の台詞は、深い口付けによって拒まれた。
「そんな長い髪、邪魔だろう?切ればいいじゃないか」
相次いだキスの後に緑色の髪留めを取り、茶色の長髪を靡かせて紅月はガブリエルの提案を遮った。
「人の気に入っている物にケチをつけるな」
目の下の睫毛のように伸びた白い羽毛が、下で動く車のライトの光を反射する。ベッドに横たわっているガブリエルの腰を軽く撫でてから、紅月は煙草――中南海と書かれた紙の箱から取り出した一本を咥えた。
「ふん、お前にはケチ付けたいことが沢山あるけどな。そのヤる前に一服する癖とか」
ガブリエルの目の下に生えた魚鱗が、ライターの火に照らされる。文句を言われたからなのか、紅月は煙を彼の眼の前で吹き付けた。咽る彼を男は一瞥し煙草を、既に吸い殻で溢れていた銀の灰皿に押し付けた。
「煙てぇぞ」
「情緒の無い奴だ」
意味は分かっているだろう?と悪どい笑みを浮かべる紅月に、今度はガブリエルが悪態をついた。
「浪漫で俺が抱けるとでも?」
男を誘うようにワイシャツの釦を一つずつ外しながらも、頑なに優位に立たされることを拒むガブリエル。
「夢の無いことを言うな」
晒された喉元、胸元へなぞるように指元を這わせると、彼の胸が浅く上下した。
「俺たちの関係がそんなに甘美じゃぁねえことは、お前だって分かっているだろうが」
紅月はそれを見届けるように、彼の言葉を受け止め、パリの宵闇に妖しく笑った。
「独占欲と執着心と性欲か。十分ではないか」
「それは、お前が俺に抱いて良い感情なのか?」
ガブリエルもそれに呼応するように、紅月の頬に触れて微笑んだ。
行為の激しさからシーツを掴む彼の手の甲には疎らに鱗が生えていた。低く呻きに近い喘ぎを漏らし、腰を動かす彼を容赦なく犯す男。抱くというよりは犯すという言葉の方が正しかった。お互いの香水と、煙草の匂いが混じる。項に口づけし、後ろから責め立てる紅月に為す術もなくガブリエルは身を捩らせて快楽を貪っていた。
「あ、紅月っ」
「まだ音を上げはしないだろう?」
ぐい、と腰を推し進めると奥に当たったのか、彼は体を仰け反らせた。呼吸を整えて相手を睨む。
「調子乗るな」
「乗って当然だろう、お前がそこまで善がるのだから。それとも焦らして欲しいのか?」
動きを止める紅月。急な変化に戸惑うかのように、ガブリエルの腰はひくついた。
「クソが」
「おねだりの一つでも言ってみろ、半魚人」
この状況で堪えられる彼ではない。舌打ちを一回すると、ガブリエルは紅月の方を向いて、目を伏せ要求した。
「うるせえ、わかってるよ、言えば良いんだろ……お前が欲しい、って」
「本心か」
「大嘘に決まってるんだろ……ッ!」
紅月は一瞬笑うと、一気に彼の奥をめがけて穿った。突然の刺激に体を痙攣させたガブリエル。引き抜き、ゴムを外した彼は苦笑いを浮かべてガブリエルの尻を軽く叩いた。達した直後の彼には、それですら甘い感覚だったのか小さく喘いだのが聞こえた。
「確かに、嘘つきだな」
荒い呼吸を繰り返すガブリエルを見下ろす。……既に私達は、手に入っている物を持て余しているのだから。そうやって本当のことを言うのは、今日はそぐわないなと男は判断し、その言葉を胸にしまった。壁にあったカレンダーを4月にするのを忘れていたことを、今更思い出しながら。
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