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主の話
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パリの眩い朝。厳密には早朝といえる時間に19区にある"例の建物"の最上階で、足音が鳴り響いた。耳にヒレのあった方の幹部、ガブリエルが急ぎ足で部屋に向かっていたのだ。
「紅月から聞きましたよ。旦那は本気であの失敗作を利用するつもりなんですかい?」
扉の開く音。そこをノック無しで開けては、"粛清"待ったなしのはずだ。無礼を許可されているのは"双璧"と呼ばれる幹部のみ。
「んもぉ、朝じゃっで、もちっとなんとかならんのか?」
何故なら、ガブリエルが要件を叫んだ先にいた相手こそ……
「いち早い判断が必要なんですよ、ロダンの旦那ァ!」
組織の長であるエルネスト・ロダンに他ならないからだ。
「|俺《おい》はもっと寝たかったのに、お|前《はん》が起こすっからぁ!」
「早急な用だったもんで、すいません。しかしあのヨナタン・ネイハウスというタコ人間を放って置いていいんですか」
「タコ人間じゃなか!|オクトパス型海洋遺伝改変兵士《アクアジェナイド・オクトポーダ》じゃ、我が社の製品じゃっでな!
方言混じりのボスの訂正にこめかみを押さえるガブリエル。"商標"を言うことを強制されたことに対し呆れたのではなく、今座っている彼が夜暴れすぎた形跡が倒れている男女からしっかりと分かることに対してであった。反省した様子はなく言葉を続けるエルネスト。
「ちなみにお前は|条鰭型海洋遺伝改変兵士《アクアジェナイド・アクチノテリジー》じゃからな、覚えてたか?」
「そういうのは|紅月《あいつ》に振ってくだせえ。俺が言いたいのはあのタコ人間を野放しにして大丈夫かってことです」
「なんだいさっきから|紅《ホン》ちゃんのこと気にかけてるみたいだけど。……やっぱい夜は楽しんでいるのかい?知っとるよ、俺はギャビーが下になって喜んでいることぐら……」
「ボス!」
飄々と答えを躱すエルネストに限界を示したガブリエル。名前を呼ばれてまったく、と肩透かしのポーズをしながら彼は渋々口を開いた。
「……ギャビー、あれの何が失敗作だと思う?」
「何、と言われましても」
急な質問に、閉口するガブリエル。ボスはすぐに、先程のちゃらけた雰囲気を纏いつつも狂気を含ませて笑った。
「俺に対してちゃあんと言うこときかないとこだよ」
洗脳処置から逃げ出したヨナタンの行動と一致した解答。即ち。
「旦那、それはっ、」
目を見開く彼に、そういうとこは察しが良いねとエルネストが褒める。
「そう、我々に対しての反乱因子になる。」
たとえ非人道的な兵士を作っているのが世間に既知だったとしても、当事者から訴えられたら勝ち目はない。隠蔽を繰り返してきた組織とはいえ、
「しかも、ポテンシャルがでかいんだあ、あの子は。」
"彼"は、それを凌ぐ強さがあると見込んだのだ。
「だったら尚更俺たちが動かないと……」
「……だからダーヴィドをつけさせたってわけ。」
焦るガブリエルに標準語で応対するエルネスト。真剣に話している証拠だ。
「なんで、奴を……?」
「あの子を過小評価してるね、ギャビー。駄目だよ人間立場だけで評価しちゃ」
ベッドに倒れていた女の尻を一撫でしてから、エルネストは立ち上がり窓の朝日に目をくれて、壁によりかかった。裸にガウンという格好なのに、威厳があるのは流石に組織のボスだからだろうか。
「アクアジェナイドの底力を見せるときが来たって感じ?一応言っておくけどね、ギャビーや紅ちゃんの代よりは新しい型だから、改良されてるんだよ?」
「それは分かってます、分かってますけど……」
語尾を濁らせるガブリエルに、フ、と息を漏らして笑うエルネスト。
「分かっているならそれでいいだろう? ま、これは賭けにも近いんだけどね……」
そしてぎょろり、と出した5つの左目が、天井のシャンデリアを睨んだ。
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