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スポットライト
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彼は机から下りて、休むようにソファに寝転んだ。
僕は今までのことに疑問を抱いていた。
それを彼にぶつけることにした。
「…どうして、急に人格交代したんだ。僕と再会してからは一度もしていなかったのに」
質問に答えてくれないだろうと思っていたが、意外にもあっさりと口を開いた。
「…お前と翔が再会する前までは、頻繁に変わってたんだよ。でも翔はお前と会ってから、なかなかスポットライトから離れようとしなかった」
「スポットライト…」
「まぁ流石に男達に襲われた時は、翔平が出てきたけどな。だけどお前の声で、簡単に翔が引き戻された」
「………」
あの夜、翔ちゃんの名前を呼び、そして翔ちゃんは僕の名前を呼んだ。
あれもその現象だと言うのか。
「でも、流石にお前に同情するぜ」
「同情……?」
彼は鼻で笑ってこう言った。
「翔はお前の事が好きになっていたんだよ」
「…っ」
突然の告白に戸惑ったが、同時に嬉しさを隠しきれなかった。
翔ちゃんが僕のことを好き。
同情される言われなどない。
けれど、次の言葉に衝撃を受けた。
「だけど、お前がひた隠しにしている想いに気付いた瞬間、お前の事気持ち悪いって思ったんだぜ。あははっ…!アイツも俺も大概歪んでるよなぁ」
「あの栞か…」
やっぱり隠しておけば良かった。
翔ちゃんが覚えているなんて思いもしなかった。
再会してからの翔ちゃんは、昔の事をあまり覚えていないようだったから。
というか、昔の記憶のピースを、所々無くしてしまっている感覚みたいだ。
僕に対しての、悪い記憶しか残っていない。
もっと重要な部分の過去に、彼は踏み込んでいなかった。
「しっかし翔も、都合の悪い事だけ忘れるなんて、狡い奴だよなぁ。…あの喫茶店で働く前、何してたと思う?」
「…高校に通っていて、中退したんだろ」
「その後だよ。…聞きたいか?」
嫌な予感がした。
僕は「聞きたくない」と答えたが、彼は口を止めなかった。
「体を売ってたんだよ、変態ジジイどもにな。」
言葉が出てこなかった。
彼のそんな姿、想像すらしたくもない。
言葉だけで分かる彼の壮絶さに、涙を堪えきれなかった。
ポタポタと、落ちる涙を掌で押さえた。
「同情のお涙ですか。…まぁ、翔じゃなくて俺が身体を売ってたんだけどな」
「おまえっ……!!」
かっとなり、彼の胸倉を掴んで拳を握った。
そんな僕の振る舞いに、彼は怯みもしない。
むしろ挑戦的な瞳をしていた。
「殴りたきゃ殴れよ。翔の身体が傷ついてもいいならな」
そうだ。
今は理人だけど、身体は翔ちゃんでもある。
僕が殴ったら、翔ちゃんが傷ついてしまう。
僕が手を離すと、理人は高飛車に笑った。
「やっぱり、お前面白いな。からかいがいがあるぜ」
「全然面白くないよ。…もう翔ちゃんに会わせてくれ」
僕はもう精神的にきていた。
色んな情報が頭に飛び交って、思考が疲れ切っている。
頭を抱えた僕を見て、理人は歯切れ悪く了承した。
「っち、わーったよ。でも、違う奴が出てきたらごめんな?」
「…なっ」
言いかけて、僕は口を閉じた。
理人はもう瞼を閉じ、ソファに寝転がっていた。
僕は彼に近づき、隣に座った。
「翔ちゃん…」
名前を呼んだら、戻ってきてくれるかもしれない。
でもきっと、違う人格が出てくるだろう。
だって、翔ちゃんは僕に会いたくないと思うから。
僕が彼を傷付けてしまった。
「ごめんね…」
________この声が、彼に届きますように。
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